日本俺名山 2019-2020

2020年は世界ががらりと変わってしまった。行き過ぎた資本主義は限界を露呈し、社会の分断はますます進んだ。有言無言の圧力で行動にも制限がかかり、自由に出かけづらい雰囲気になった。

そんな時代にあっても、ぼくはそれなりに山に登っていたようだ。この二年間に登った中から選んだ15の山のうち、半数が2020年に登った山だ。遠くの山だけでなく近くの山にも登った。近所の山を散歩したりもした。より遠くへ行くだけが旅ではないことも知った。いつでも、どんな状況にあっても、いまこの目の前の瞬間を精一杯に楽しんでいきたい。

1.不動岳(深南部)

矢筈尾根の急登、六呂場山の哲学的な言葉、笹原をかき分けて進んだ鹿ノ平、威風堂々とした山の姿、コッヘルもフライパンも忘れて平たい石を探して肉を焼いた夜とともに、生涯記憶に残る山旅であった。

2.丸盆岳(深南部)

風に揺れる笹原の向こうには丸みを帯びた優雅な山容、強風にさらされたカモシカ平での一夜、朝日に輝く山の朝、心の澱がすっと消えていく、そんな二日間だった。

3.立山(北アルプス)

立山は天国である。お金を払えばアルペンルートで気軽に行ける天国。経済的な余裕があれば、いつだって行きたい場所。山の神様の計らいで、最高の四日間を過ごすことができた。

4.袈裟丸山(足尾山塊)

シャクナゲの薮と見えない踏跡、崩れかけた登山道。進めば進むほど山は深くなっていく。前袈裟丸山から袈裟丸山最高点までの山歩きには、山の楽しさがめいっぱい詰まっていた。

5.富士見台高原(中央アルプス)

山頂からは360度ぐるっと見渡せる。寒さに震えながらも立ち去りがたく眺めつづけた、夕暮れの光に淡く染まっていく風景は忘れることができない。

6.赤牛岳(北アルプス)

とにかく暑かった。暑すぎてバテバテだった。水晶岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳、黒部五郎岳、薬師岳と印象的な山々を縦走した五日間の中でも、最も奥地のこの山までの行程が鮮烈な記憶として残っている。

7.古祖母山(九州)

一年前にカギも財布も携帯も残したままドアロックしてしまい、登らずして敗退した祖母山に365日後に登頂した。その後の縦走路は静かで穏やかで、どこを見ても景色は良くて、いつだって幸福感に包まれていた。

8.辻山(南アルプス)

以前に登ったときに眺望のすばらしさに感激し、ここで一夜を明かしたいとずっと思っていた。優雅で美しい南アルプスの稜線と刻々と移り変わる空の色は、目を閉じるといつだって浮かんでくる。

9.爺ヶ岳(北アルプス)

三日間の後立山縦走では鹿島槍ヶ岳も五竜岳も素晴らしかったが、最初のピークの爺ヶ岳で立山から剱への稜線を目にした時が、最も高揚した瞬間であった。

10.日留賀岳(男鹿山塊

登山口からして超ローカルな日留賀岳には、旅の楽しさがあふれていた。登る人の少ないあまり人気のない山でも、いい山はたくさんある。

11.半月山(日光)

男体山の展望台として最高の場所。中禅寺湖畔から眺める男体山もいいものだが、ここまで登ってくれば完ぺきな風景を見ることができる。

12.赤ぼっこ(奥多摩)

自粛中に行くとこがなくてしかたなく登った青梅の山だけど、こんな素敵な場所があるなんて知らなかった。旅は距離ではないし、山は高さではない。すべては心の持ちようである。

13.二子山(奥秩父)

適度に高度感のある岩場と岩稜には特別に危険な箇所もなく、気軽に岩登りを楽しめる。また遊びに行きたいと思わせる山だった。

14.佐武流山(谷川・苗場)

たいしたことないだろうと油断していたら、予想外の急登がずっと続いた。登っていた人がみな、キツいですねと言う楽しい山だ。

15.神石山(湖西連峰)

小学生が遠足に来るような山だが、どうしてどうして馬鹿にしたものではない。浜名湖を見下ろす気持ちのいい山頂だった。

2021年はどんな年になるのだろう。先の見えないもどかしさはあるが、不思議と不安はない。どうせいつだって、なるようにしかならないのだ。できないことを嘆くのではなく、目の前の楽しみを楽しんでいきたい。世界は驚きと発見に満ちているのだから。