楽しい岩の楽しい山 – 二子山
楽しい。これは楽しい山だ。
股峠から西岳へ登る道は一般コースと上級者コースに分かれていて、一般コースが巻道、上級者コースが岩場の直登になる。上級者コースは、パッと見は垂直な岩峰だし、クサリはすべて取り払われているとの警告もあるし、なにより上級というのはザイルが必要との認識だったので躊躇したが、前を歩いていた少年が登っていったので、自分も行ってみることにした。まあ、もうひとり基部から見上げていた兄ちゃんは諦めて巻道へ向かっていったが、それは気にしないことにする。
登ってみると、垂直に見えた岩にも傾斜の緩い部分があり、そこを伝って登っていく。手がかり足がかりは豊富で、特に難しい箇所もない。楽しく登れるということは、それだけ余裕があるということだ。本当に厳しいルートなら、もっと緊張してるだろう。振り向いて景色を楽しむゆとりもある。
西岳の前に登った東岳では、ザレた急斜面で踏み跡が消えていて、適当なルートで通過した。撤退する人も少なくないらしいが、この程度の荒れ道なら、西上州ではよくあるレベルだ。
岩場を登り切ると、先ほどの少年とそのお父さんらしき男性が、太陽の照りつける稜線上の僅かの日陰で休憩していた。
「暑いですね…」
少年の父がため息混じりに呟いた。
この夏の狂ったような暑さが最高潮に狂っていた日だ。風速ゼロメートルで風はびたりと止まっている。
「風があればまだいいんですけどね…」
上半身ハダカで汗を拭う親子を後にして、汗ダラダラ垂らして歩く。しかたない。こんな季節に来るほうが悪い。秋の深まった爽やかな日に登るのが妥当であろう。
なんだかピークがいくつもあって、どれが西岳なのかよくわからなかったが、とりあえずすべてを通過したから登頂はしてるはずだ。
じっとしてると直射日光で焼かれそうなので、休憩も早々に先へ進む。
股峠へはもどらずに、岩稜を縦走して下山する。
こちらもなかなか楽しい道だ。適度にアップダウンもあり、眺めもいい。一見、険しそうだが、歩いてみると難しいところもない。
これはなかなかいい山を見つけた。うちから遠くなくて、短時間で登れて、適度に刺激があり景色もいい。また来よう。もっと涼しくなったら。
岩稜地帯を下り終えて振り向くと、歩いてきたすべてが見えた。V字にくびれているのが股峠、右が東岳で左が西岳、そこから稜線伝いにここまで来たのだ。
あとは樹林帯を下ってから、舗装路を歩いて駐車場までもどるだけだ。
2020年8月