ローカル山でローカル登山 – 日留賀岳

登山口からして超ローカルだった。

幹線道路を外れて山道に入り、ナビに従って集落の細い道を通過し、畑の間を抜けて奥へ奥へと進んでいった。こんなに狭い道に入って大丈夫だろうかと心配になってきたころ、一軒の民家で行き止まりになった。この小山さんのお宅が登山口であり、駐車場もその敷地内なのだという。

ほんとうにここでいいのかな?と見回すと、他県ナンバーの乗用車が一台停まっていたので、その隣に駐車した。

早朝だというのにすでに農作業を始めていた小山さんの奥様にご挨拶し、母屋の庭を抜けてお祖母様にご挨拶し、母屋の裏に回って登山開始だ。

標高を上げていくと、紅葉が鮮やかだった。

木々の間からチラリと山頂が見えるが、大木が茂っていて全体像を眺められない。だが、見晴らしのために伐採してしまうよりも、このほうが山らしくて良い。

日光と那須の間にあるこの男鹿山塊には渋くて良さげな山が多いが、登る人は多くない。不人気の理由は、日光や那須のように著名な山がないからでもあるが、ほとんどの山に明確な登山道が付いてないからでもある。そんな中で数少ないまともな登山道の整備されている山がこの日留賀岳なのである。といっても、登山口からして超ローカルではあるが。

美しい紅葉の下を歩き、鬱蒼とした森を抜け、笹原を登っていく。

遠く見えた山頂も、だいぶ近づいた。

山頂にはだれもいなかった。先行していたソロのおじさんとは、山頂の手前で下山してくるところをすれ違った。

静かだ。空は晴れて日差しは暖かい。あとは下山するだけなので、ここでゆっくりしていこう。もう今日は誰も登って来ないだろう。

そう思って食事の準備をしていると、トレランスタイルの登山者が到着した。後から後からお仲間がやってきて、総勢5人で賑やかにしている。まあ、これはこれでいい。静かな山が好きだが、賑やかな山も悪くはない。会話に耳を傾けていると、どうやら県内の人たちのようだった。ソロおじさんは隣の県だったし、やはり遠くから登りに来る人は多くはないのだろう。

トレランさんたちはひとしきり賑やかにして、あっというまに下山していった。

ぼくは、のんびりとラーメンをすすり、何度も何度も周囲の風景を見渡してから山頂を後にした。

下山して、まだ農作業をされていた奥様に、下山報告と車を停めさせてもらったお礼を伝えに行った。

「今日は賑やかだったわね〜。あの人たち走ってるの? すごい早く降りてきたわよ」

そうみたいですね、あっという間に行っちゃいました。

「今日はたくさんの人が登って賑やかだったわね~」

登っていたのはぼくとソロおじさんと5人のトレランさんたちの計7名である。

奥様は何度も「賑やかだったわね~」をくり返した。ぼくは、この奥様に再び会う日はあるだろうかなんてことを、ぼんやりと考えていた。

2020年10月