キラキラと輝いていた、あの夏の山々 – 爺ヶ岳 / 鹿島槍ヶ岳 / 五竜岳 / 唐松岳
空にはひとつの雲もなく、山は緑に彩られ、進むべき道は目の前に広がっている。
美しい、素晴らしい、他に言葉も思い浮かばない。
扇沢から三時間登り、種池で主稜線に出た。ここからはずっと森林限界を超えた稜線を歩く。今日も明日も明後日も。
標高を上げていくと、緑の山の向こうに、剱から立山の稜線が現れた。あちらから見れば、ここは立山の後ろ側。後立山連峰だ。
爺ヶ岳南峰を超え、中峰に登り、あとは冷池へ下るだけ。
幕営地の都合で、二日で行ける距離を三日で歩くのだから、のんびり優雅なものである。でも、あまりゆっくりしてるとテントを張るスペースが無くなってしまうのが、北アルプス縦走のつらいところだ。
午後の早い時間に到着したのに、すでにテントを張るには微妙な場所しか空いてなかったが、その後もテントは増えていき、夕方には登山道まではみ出してびっちり張られていた。
西の空の満月が、立山連峰の向こうへ沈んでいく。東の空から太陽が昇り、新しい朝が生まれた。柔らかな夜明けの光が山々を、そして雲海を染めていく。二日目も快晴だ。
刻一刻と移ろい行く空の色。朝の空気が心地良い。山のもっとも素敵な時間、ゆっくり鹿島槍ヶ岳へと登る。
南峰から北峰へ、そして八峰キレットへ。
ここからは山の表情がガラッと変わる。それまでの穏やかな稜線歩きから、岩場の登り降りへと。
キレット小屋まで下り、この後の登りに備えて休憩だ。
それにしてもキレット小屋は、よくこんなところに建てたなと感心する。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつとピークを超えていく。進むにしたがって、道は岩がちになっていく。
そうして何度目かの登り返しを登ると五竜岳への分岐点、山頂はすぐそこだ。
五竜岳からの眺めも良い。
ここまで登ってきた山々、これから登る山々、いつか登る山々に囲まれている。
ひとしきり風景を堪能し、五竜の幕営地へと下る。
お昼に到着したら、まだ数張りのテントしかなかった。どれくらいの混雑かと恐れていたが、この日はそれほどたいへんなことにはならなかった。
三日目の朝も天気は上々。雲は多少あるが、青空も見えている。まもなく晴れるだろう。予報では天気は崩れそうで、雨に降られる覚悟もしていたが、これなら濡れずに終えられそうだ。
五竜の幕営地を後にして標高を上げていく。振り返るとそこには、厳つく堂々とした五竜岳が鎮座している。なかなかカッコいい山だ。
唐松岳頂上山荘に到着し、唐松岳への最後の登りを登っていく。最後の山頂まであと少し。
縦走中ずっと左手に見えていた立山から劔への稜線もまもなく見納めだ。二日前は立山が近かったのに、いまは劔の方が近い。
山頂からはぐるっと360度が見渡せる。
白馬岳へと続くこの先の稜線も、ここまで来て初めて眺めることができる。続きはまた今度、この先へも必ず歩いて行こう。
山荘までもどり、名残惜しさにぐずぐずしていたが、ふと気になり電車の時間を調べてみた。車の回収のため、白馬駅から信濃大町駅までは大糸線でもどることになる。
お昼過ぎの電車に乗るつもりだったが、ゆっくりしたので次のでもいいかなと思っていた。しかし、次の電車は3時間半後だった。さすがにそんなに時間をつぶしてるわけにもいかない。いまから急ぎ足で下れば、なんとか予定通りの電車に間に合うだろう。
ここまでは静かな稜線だったが、八方尾根は登山者でいっぱいだった。軽く渋滞してる登山道にじりじりしつつ、行けるところはダッシュで下る。そして、雪渓にも池にもケルンにも立ち止まらず、最後はリフトに課金して下山した。あとは駅まで、走らなくてもなんとか間に合いそうだ。
予定はのんびりしてるのに、なんだか最後まであわただしかった三日間がようやく終わろうとしている。あわただしさもあったが、いい山旅でもあった。
信濃大町に着いたら、餃子を食べよう。そう決めて、12時21分発の電車に乗り込んだ。
2019年9月