但馬の小京都出石で出石そばを食べる
穏やかな緑の山々に囲まれた長閑な城下町。時が止まったかのような風情のある町並み。但馬の小京都と称される出石には、そんなイメージを持っていた。
だが、初めて訪れた出石はめちゃめちゃ観光地だった。
日本最古の時計台で町のシンボルでもある辰鼓楼のすぐ前は広大な駐車場になっていた。辰鼓楼から続くメインストリートには飲食店や土産物屋がずらりと並ぶ。いかにも観光地にありそうな、地元民は絶対に入らないだろう店ばかりだ。観光客が路上にあふれ、呼び込みの声が響き渡る。
驚いた。まさかここまで観光地らしい観光地だとは思ってもみなかった。
中心街を外れるといくらか静かにはなるが、そんな落ち着いた町並みの中にも観光客向けの店がちらほらある。需要があるから店もあるのだ。それだけ多くの観光客が訪れるということだろう。
しかしいったい、みんな何を目当てに訪れているのだろう。家族連れやカップル、若者グループばかりで、古い町並みに興味がありそうには見えない。有名な観光地だからなんとなく来てるのだろうか。
そんな出石だが、キラーコンテンツがある。出石そばだ。
出石そばの店はやたらと多い。町の入口から何軒も連なっていて、中心街には蕎麦屋が密集している。まだ昼時前だというのに、有名店にはありえない数の待ちができていた。その他にも行列のできている店は多い。
たまたま開店直後の店をのぞくとまだ席があったので、私も出石そばをいただくことにした。
少量の蕎麦を盛った小皿が五枚で一人前になる。一人前といっても量は少なく、さらに五枚、十枚とお代わりして、食べ終えた小皿を積み上げていくのが出石そばの食べ方だ。この日はたいへん混雑していたのでお代わりがすぐに出せないかもしれないとのことで、最初から17皿を注文した。17という中途半端な数字にしたのは、それだけ食べると記念品がもらえるからだ。そういうところも観光地らしい。
この蕎麦を、わさびや青ネギの他に、大根おろし、とろろ、生卵といった薬味とともに食べる。意外なことに、蕎麦は太くて黒い田舎蕎麦ではなく、江戸前の二八蕎麦だった。こんな山の中で江戸前蕎麦を食べるのは不思議な感じがする。値段は安くはない、というかまあまあ高い。東京の老舗でおなかいっぱい食べるのと同じくらいの金額がかかる。
食べ終えて店外へ出ると、すでにかなりの行列ができていた。
山間の風情ある城下町は、一大観光地に様変わりしていた。静かな古い町並みを愛する者としては残念だが、経済開発としては大成功だ。古い物を古いままに残していても金にはなりにくい。
あふれる観光客で賑わうGW中の晴天の一日ではなく、人影もまばらなオフシーズンの静かな日にまた訪れてみたい。
2025年5月