奥美濃の城下町 – 郡上八幡

美濃というと、かなりの山深い地を思い浮かべる。奥美濃というのはさらにその奥なのだから、そこにはもう山しかなく、熊や猪の住む世界だろうと想像していた。しかしそこにも町はあり、人々が暮らしている。

海の無い岐阜県のほぼ中央という、海から最も離れた山間の、長良川の上流部で吉田川が合流する、そのわずかの土地に城が築かれ、城下町が発展した。

郡上八幡の建設は江戸時代前から始まっているが、今に残る町並みは比較的新しく、大正時代の建物が主なようだ。木造洋館も目立つ。

観光地としてなかなかの集客力があるようで、この日も街には人があふれていた。当然だが、中心地には観光客向けの店舗ばかりが並ぶ。しかし中心地を少し離れると、そこは昔ながらの静かな町並みだ。

町中に水路が張り巡らされていて、湧水も豊富であり、郡上八幡が水の町と形容されるのもよくわかる。

この町を訪れるのは数十年ぶりだ。確か、小学三年生か四年生の夏だったと思う。夏休みの家族旅行でここへ来た。ひと晩ぶっ通しで踊り続ける盆踊りの時期であった。それは、家族が家族として機能していた頃の儚い思い出だ。

町をぶらぶら歩いて当時の面影を探してみたが、はるか昔の薄れた記憶に埋没した町並みは蘇ることはなかった。

あの夏の日の出来事はほとんどすべて忘れてしまったが、夜通し続く盆踊りを眺めて亡き父が呟いた言葉だけが、今でもしっかり記憶に残っている。たいした言葉でも名言でもない、なにげないひと言なのだが、それがずっと生きていて、時々ふと思い出すというのも不思議なものだ。