日本百名山カウントダウン – 大台ヶ原

日本百名山は良い山ばかりなので、狙って登らなくても登山を続けていれば自然と登頂数は増えていく。いままでいくつ登ったのか数えてみたら85だった。これくらいになると、残りの山にはなんらかの登ってない理由がある。

まずは遠い山だ。北海道の九座と屋久島は、休日マイカー登山者には縁遠い。かといって日程を決めて飛行機やレンタカーを予約して、宿も予約してなんて考えただけでめんどくさい。

どうせ登るなら縦走したいが、必要十分な休みが取れなくて行けてないのが岩手山、八幡平、大峰山の三座だ。裏岩手縦走なら三日あれば歩けるものの、東京からだと行きと帰りで一日づつ必要だ。こうなると長い休みの取れないサラリーマン登山家にはなかなかチャンスがない。大峰奥駆道になると縦走だけで五日、中辺路も歩くとプラス二日、そして行き帰りで二日の合計九日になってしまう。絶望的だ。

問題は残りのニ座、大台ヶ原と荒島岳だ。このニ座は、なんだかショボそうという理由で避けてきた。ショボそうでも近ければ登るのだが、中途半端に遠いので行き帰りに時間がかかる。わざわざ遠くまで行ってショボい山に登るのもなあと考えると、なかなか足が向かない。

日本百名山完登に向けて、このニ座から攻めてみることにした。

まずは大台ヶ原だ。

大台ヶ原は奈良と三重の県境にある。金曜の夜に東京を出発して土曜の朝から登るには遠い距離だ。そこで三連休の真ん中に登ることにして、前後を移動日に当てた。とはいえ一日かけて移動するほど遠いわけでもないので、適当に寄り道しながら行くことになる。まったくもって中途半端だ。

名前から容易に想像がつくように、大台ヶ原は平坦な山だ。山というか原だ。緩やかな車道で核心部まで行けてしまう。車道の終点は広大な駐車場だった。この広大な駐車場が午前六時には満車になった。すごい観光地だ。

登山道も、登山道というには立派すぎて、もはや普通の道だった。道幅は広く、よく整備され、コンクリートで固められている区間もある。これはもう原でもなくて公園だ。ちょっと起伏のある井の頭公園だ。

駐車場から30分で日出ヶ岳に到着した。ここが大台ヶ原の最高地点になる。30分で登れる日本百名山だ。

雲が多くて景色はいまいち、わざわざ遠くまで来たのになあと思うが、大台ヶ原は国内有数の多雨地帯で、年間降水量は東京の3倍にもなるという。それを考えれば、まずまずの天気だ。

山頂からは大杉谷へ下ることができる。深田久弥も二度目の大台ヶ原登山では大杉谷へ下り、日本一美しい渓谷だと書き残している。行ってみたいところだが、ここを下ると車の回収が困難を極めるので、今日のところは「いつか行きたい場所リスト」へ加えておくことにした。

日出ヶ岳だけで終わりではいくらなんでもショボ過ぎるので、周辺を散策することにした。深田も最初の大台ヶ原登山では、山荘に二泊して周辺散策に費やしている。

駐車場へはもどらず、正木ヶ原から牛石ヶ原へと歩いていく。「原」という名が示す通り、ずっと平坦だ。そしてずっと木道が続く。それも山の木道とは思えない、幅広で立派な木道だ。傾斜のあるところは階段になっている。やはりここは公園だ。

薙ぎ倒された木々が目立つのは、伊勢湾台風で倒れたものらしい。私が子供の頃、産まれる前の伊勢湾台風の記憶はまだ街のあちこちに、そして人々の心の中に強烈に残っていた。あれから何十年も経ってなお、伊勢湾台風の爪痕を見るとは思わなかった。

周回路から外れて、展望良好だという大蛇グラへ寄り道してみた。

大蛇グラは、空中に突き出た岩の先端だ。細長い先端に向かって下っていく。フェンスがあるから安心だけど、なにもなければ恐怖だろう。足を滑らせたらジャンプ台のように空中へ飛び出してしまう。

大蛇グラの先端から望むと、すぐ目の前に大峰山脈が連なっていた。あそこも行かなくちゃな。

大蛇グラの分岐から駐車場までは公園道ではなく登山道だった。一旦大きく下って沢にかかった橋を渡り、そこから大きく登り返すことになる。

最後の最後にに本格的な登りがきて登山らしくなった。油断してたのでキツかった。

2025年9月