裏越後三山周回 Day2&3 – 中ノ岳 / 越後駒ヶ岳

二日目、今日も長い一日になるだろう。

まずは兎岳だ。幕営地からはひたすら登りになる。

兎岳には昨年の夏に来た。十字峡から丹後山、大水上山を経由して登ってきたのだが、丹後山までは樹林帯の急登で、真夏のとても暑い日だったためたいへん消耗した。だが、丹後山からは笹原の広がる緩やかな稜線で、気持ちよく歩いて登頂したのだった。

あの日に歓迎してくれた兎に今回も歓迎された。

上まで登るのはキツイけど、登ってしまえば気持ちよく歩ける稜線が続いている。昨年の兎岳はそんな印象を残したので、裏越後三山の縦走もきっと気持ちよく歩けるのだろうと思っていた。

しかしところが、この急斜面だ。兎岳から小兎へは急角度の下りだった。ジグを切ってないので真っ直ぐ降りることになる。地面はぬかるんでずるずる滑る。駆け降りるなんてもってのほか、足を踏ん張ってよろよろ下るしかない。登るのと同じくらい時間がかかる。

小兎を過ぎてもまだ下る。大きく標高を落としたら、そこから中ノ岳への登りが始まる。

縦走中で最も標高の高い山だ。ひたすら下った後には、ひたすら登りが待っている。

お昼前だったので、中ノ岳の山頂や山頂の少し先の避難小屋周辺ではたくさんの登山者が休憩していた。ここまで登ってきたらゆっくり休みたくなるが、まだ先は長い。あまりゆっくりしていられない。

中ノ岳から先は道が悪かった。相変わらず急角度で下るし、ぬかるんで滑る。トラバース気味に付いている登山道は崩れている箇所も少なくない。落ち葉で隠れているので、うっかりすると踏み外してしまう。植物が密生してるから谷底へ落ちることはないものの、慎重に進まざるを得ない。

昨日も見たけた若い三人組に追いついた。若いので体力もあり、昨日は追いつかれて追い越されたのだが、今日はこの悪路に手こずっているようだ。こういうところでは体力よりも経験が生きる。

それにしても下る。どんだけ下るんだよというくらい下る。もう2時間以上も下っているが、まだ下りだ。

荒沢岳の標高は1969m、兎岳が1926m、中ノ岳は2085m、そして越後駒ヶ岳が2003m。ほとんど標高差はないので穏やかな稜線をゆったり縦走するイメージで来たが、現実はまったく違った。急角度で登り急角度で下るのくり返し、V字の連続でVVV字だ。大きな山に続けて登山してるようなものである。

いいかげんうんざりしたころ、ようやく鞍部の天狗平まで降りてきた。そしてここからは越後駒ヶ岳への登りだ。すっかり疲れた終盤にこの登り、ため息しか出ない。

しかたかないので登る。登るしかないのだ。これを登れば登りは終わり、これを登れば登りは終わりと心の中で念じて登る。

ずいぶん長い時間登り続けた気がする。急斜面を登り終えると平坦な道が続いていた。ホッとしたものの、なかなか山頂に着かない。

陽が傾いてきた。

小屋への分岐点を通過していちおう山頂を踏んでから、小屋へ下ってテントを張った。

「あっ、いたいた」

疲れてぐったりしていると聞き覚えのある声がした。昨日のお姉さんだ。今日も途中で二度会っている。お姉さんはずいぶん早いので、だいぶ先に着いていたようだ。晴天の三連休で人も多く、小屋は満員でテントも多い。よく見ると昨日も見た顔が他にもチラホラ見えた。みんな同じ行程でここまで来たのだな。

空が夕暮れ色に染まり始めた。すっかり疲れてるのでこのまま寝ていたかったが、せっかくなのでがんばってもう一度山頂まで行くことにした。30分登れば山頂なのだが、その30分がつらい。それでも荷物がないだけありがたい。

山頂では数人の登山者とともに、落ちていく夕陽と紅色に輝く山並みを眺め続けた。

三日目は下るだけだ。ゆっくり起きて、たらたらと撤収する。

もう一度山頂まで登る気力はなかった。下山だけとはいえ、距離はまあまあ長い。

ひさしぶりのテント泊縦走で足が売り切れている。下りはよけいに力が入らない。よろよろと下る。まあ、ゆっくり歩いても昼には下山できるだろう。

それにしても天気が良い。この三日間で歩いた山々がよく見えている。昨日も一昨日も悪くはなかったが、下山するだけの今日が最も良い。なんだかもったない気もする。

越後駒ヶ岳は地味山な印象だったが、こうして見ると実にかっこいい。中ノ岳はやっぱり威風堂々としている。

初日に登った荒沢岳は飛び抜けてイカついな。よくあんなとこに登ったよな。

思っていたより距離が長いのか、すでに限界以上に消耗しているせいか、いつまで歩いても麓に着かない。3分の2ほど下ったところで例のお姉さんに抜かされた。出発が遅かったからもう会わないと思ってたと言っていたが、余裕で追いつかれるほどに遅いのだ。

あと少しのところでは、二日続けて隣にテントを張っていた二人組にも抜かされた。急ぐ旅ではないのでいいのだけど、もうちょっと鍛えとかないといけないなと反省した。

標高が下がると沢を流れる水の音が大きく聞こえてくる。空は青く山は緑で流れる水は清々しい。水と緑の惑星、そんな言葉が頭に浮かんだ。

ようやくに下山し駐車場までたどり着き、銀山平の温泉で三日間の汗を流した。湯船に浸かると、「おつかれさまでした」と声をかけられた。よくよく見たら温泉に浸かってる人たちはみんな見覚えのある顔だった。

2024年10月