二月のテント泊 – 瑞牆山 / 金峰山

この10年間の記録を見ると、二月には一度もテント泊をしていない。おそらくそれ以前にもしていないだろう。それならと、どこかへテントを張りにいくことにした。その他の月ではテント泊しているから、これで年間制覇だ。

行き先はどこにしようと考え、富士見平に決めた。テント泊するのが目的なのでどこでもよかったのだが、富士見平ならほんの少し装備を担ぎ上げるだけですむ。それにひさしぶりに金峰山にも登っておきたい。

瑞牆山荘前を出発し、1時間足らずで富士見平に着いた。

さて、どうしよう。ここにテントを張り、今日は金峰山へ、明日は瑞牆山に登って下山する予定だった。しかしなんだか、ここでテント泊するのは気が進まなかった。あっさり着き過ぎてつまらないというのもあるし、もっと雪のあるところで泊まりたいというのもある。そうだ、せっかく二月のテント泊なんだから、もう少し上でテントを張ろう。

幕営地は大日小屋と決めたが、このまま向かってもすぐに着いてしまう。なので、先に瑞牆山へ登っておくことにした。今日も天気はいいが、明日もかなりいいだろう。夜明け前から登り始めて、明日の朝は金峰の山頂で迎えるのもいい。

装備はどうするか。テントを設営してから向かうつもりだったので、アタックザックなど持ってきていない。まあ、考えてもしかたない。すべて背負っていくしかない。いくら好天だからといって、さすがにカメラだけ持って登るのはやり過ぎだ。

瑞牆山へは急な登りが続く。軽身でもそれなりにキツい急登だ。それをテント泊装備で登る。どうせ1時間しか背負わないからと、むやみやたらに酒やら食料やらを詰め込んだザックは不必要に重い。テントで読むつもりだった本も入っている。

瑞牆山への登りは、急登でそして長い。登っても登っても終わりが見えてこない。なんども登ってる山だが、こんなにたいへんなのは初めてだ。なんでこんなことに…と思うが、自分で決めたことだからしかたない。

あえぎあえぎ登り、ようやくたどり着いた最後の岩場を上がると、視界が開けた。

富士山に南アルプス、目の前には八ヶ岳、小川山への稜線と金峰へ続く道。どれもこれもが青空の下で輝いていた。

山頂に居合わせたみんなが笑顔になれる、そんな空だった。

先ほどはあんなにたいへんだった登り坂をこんどは下り、富士見平からは再び登って、大日小屋にテントを張った。

他にはだれもいない、テント場に踏み跡もないから、ずっとだれも泊まってないようだ。おそらく後からも来ないだろう。ここにしてよかった。

到着したのは、まだ午後の早い時間だった。ひとりの雪山をゆっくり楽しもう。

翌朝、テントを出たのは夜明けまでまもない時刻だった。ほんとは暗いうちから歩いて、山頂で朝を迎えるつもりだったが、あまりの寒さにぐずぐずしてるうちにこんな時間になってしまったのだ。

寒さに震えて寝袋の中で丸まっているあいだ、時折ザッザッという足音が聞こえていた。富士見平にテントを張った登山者が金峰山へ向かう音だ。みんなやる気あるなあと感心して聞いていた。

出遅れたけど、山頂へ行こう。最高の天気が約束されている、ちょっとくらい遅くなっても気にすることはない。

登り始めてすぐに、朝日を浴びた南アルプスが紅色に染まっていた。

その後は早く早くと気をもみながら樹林帯を登り、砂払ノ頭で森林限界を超えると、あとはビクトリーロードを進むのみ。

神々の住処はいつでも美しい。しかしその中でも、晴天の冬の日は格別だ。空も山も透明に輝いている。

ぽつんと見えていた五丈岩がだんだん大きくなってきた。あと少し。

数年ぶりの金峰山に到着した。記憶の中の通り、なにも変わらぬ山頂だった。

山歩きの好きだったぼくが、本格的に登山にハマるきっかけとなった山頂だ。あのころのいろいろがなつかしく思い出される。いまごろどこでどうしているのだろう。いまでも同じ空を見上げてるだろうか。

あの日以来、金峰山には毎年登っていたが、ここ数年は来ていなかった。でもやっぱりここはいいな。想い出の詰まった山頂だ。

キリッと冷えた空気が心地良い。夜明け前から登っていた登山者はとっくに下山してしまった。日帰り組が到着するのはまだ少し後だろう。

それまでずっと、このすばらしい眺めをひとりじめしていよう。