十数年ぶりのズル金 – 金峰山
奥秩父らしい針葉樹の森を行く。この道を歩くのは十数年ぶりだ。
十年以上前のあの日、プライベートのゴタゴタに心底疲れて、携帯電波の届かない山の中へと逃げてきた。ただただ現実から目を逸らしたかった。
あの日は今日のように快晴で、空気は澄んでいて、山って良いなと改めて実感した。
あれからまだ十年ちょっとなんだ。もうずいぶん昔のことのようだ。今頃どうしているだろう。今なら笑って話せるかもしれない。
そんなことを考えていたら、視界が開けた。正面の八ヶ岳が美しい。
あれ?もう森林限界を越えちゃった?
左手に目をやると、ちょこんとした出っ張りが見えた。あれ五丈岩だよな。山頂までもうすぐじゃん…。
大弛峠からの金峰山は、さすが「ズル金」と揶揄されるだけあって、実に楽ちんで簡単だ。それでもあの日、そこそこ長く感じたのは、高い山に慣れていなかったからか、それとも気が重かったせいだろうか。
時間はたっぷりあるので、山頂でゆっくり過ごした。
それなりに多くの登山者が登って来るが、山頂が広いからさほど混雑していない。これも金峰山の魅力のひとつだ。
下山時には金山に立ち寄った。あの日はスルーしたこのピークを踏むのが今回の目的だったのだが、行きではうっかり分岐を通り過ぎてしまったのだ。こんなに近いとは思ってなかったからさ…。
想像以上に狭っくるしい山頂だったが、いちおう踏めたからよし。
十数年前のあの日は、下山して携帯の電源を入れたら、鬼のような着信履歴と留守電の嵐でゲンナリしたが、今日はそんなものは無い。まあ、無いなら無いで寂しいなと思わないでもないが。
よくよく考えてみると、今は今でいろいろあるか。あんまり成長してないな。
2023年9月