黒川鶏冠山の謎

飲み会の翌朝。なんだかまだ酔ってるような気分の中、ゆっくり起きて仕度して、珍しく高速を使ったら事故渋滞に巻き込まれ、登山口に着いたのは午前11時でした。

まあ、こんな時間からでもさらっと登れるからという理由で黒川鶏冠山にしておいたのでした。柳沢峠からならたいした時間もかかりませんからね。ほんとは金山跡に行ったり、大菩薩嶺まで縦走したりしたいのですが、欲張らないようにしておきます。

登山道はびっくりするくらいの完全整備で、あっという間に黒川山の標柱があるところまで来てしまいました。

が、しかし、ここは山頂なのでしょうか。どう見てもただの分岐点です。標柱も山頂標柱というよりは、ただの導標にしか見えません。それに、標柱の後ろはちょっとしたピークになっていて、明らかにそっちの方が標高が高いです。

疑問に思いながらも、展望台と表示のある方向へ進んでみました。

展望台への道は、標柱の背後の小ピークを巻いているので、いちおうその小ピークにも上がってみました。すると、三角点とともに腐りかけた黒川山の標柱があるではないですか。

黒川鶏冠山というのは、黒川山と鶏冠山という二つの山をひとつにまとめた総称だという説や、鶏冠山を西沢渓谷の鶏冠山と区別するために付けた名前だという説もありますが、どうやら現地の標柱もその設置時期によって混乱しているようです。

それにしてもこの黒川山の三角点のある山頂は、登山道から外れていて、ここへ至る道標もないので、スルーしてしまう人も多いのではないでしょうか。

登山道を完全整備してるわりにはなんとも不親切だなと思いつつ、さらに先の展望台へと向かいます。

数分歩いたところにある展望台は、いちおう展望台という名前が付いてるので、それなりに景色は見えました。が、まあ、なんというか、登山道の途中の木々が途切れたところレベルでもあります。黒川山の山頂にも途中の登山道にも全く展望はないので、ここを名所にするのもわからなくはありません。

しかしわからないのは、この展望台は三角点のあった黒川山のピークよりも標高が高いのです。黒川山1710mに対して、展望台は1716mです。周囲をすっかり樹林帯に囲まれた三角点ピークとは異なり、ちょっとした展望もあります。それなのに、展望台なんて名前が付けられているだけです。

後日、調べてみたところ、三角点と黒川山の古い標柱のあるピークが黒川山東峰、展望台が黒川山西峰ともされているようでした。それにしては、展望台には標柱もなにも全くありません。標高も高いし展望もあるのに、全く不遇なピークです。

さて、どう見ても山頂じゃないのに真新しい山頂標柱のある分岐点までもどり、今度は鶏冠山方面へと向かいます。道標には鶏冠山ではなく鶏冠神社とありました。おそらく山頂に祠があるのでしょう。

分岐から鶏冠神社へ向かうと、突然登山道が荒れ始めます。先ほどまでの完全整備と比べると、驚くほどの格差です。ここまでがあまりにも歩きやすかったので、いきなりのことに戸惑います。

危険だから注意しろという表示のあるちょっとした岩場を登ると、その先がピークでした。分岐点からはほんの数分で到着しました。

周囲を見回し地形図で確認しても、ここが最高点のようです。が、しかし、山頂にはなにも人工物がありません。山頂標柱もないし、祠もありません。
もしかしたら長い年月の間に崩壊してしまったのかもと思い周囲を探してみましたが、残骸を発見することはできませんでした。

ピークからは三方向に薄い踏み跡があり、少し辿ってみましたが、どれも明らかに下っていくので、やはりここが山頂のようです。

釈然としない気持ちで、分岐のくせに真新しい山頂標柱のあるところまでもどってきました。

そうだ、そういえばまだあれを見てないじゃないか。

黒川鶏冠山は山梨百名山のひとつですが、山梨百名山の標柱は、ここまでの三つのピークにはありませんでした。山梨百名山の標柱は必ずしも最高地点に立っているわけではなく、その山の山頂にふさわしい場所に立てられていることが多いです。

となると、やはりどこかに鶏冠神社があり、そこに山梨百名山の標柱もあるのではないでしょうか。考えられるのは、先ほどの岩場ピークのさらに先しかありません。めんどくせえなと思いつつも、もどってみることにしました。

岩場ピークをもう一度よく点検しましたが、やはり人工物はありません。あとは薄い踏み跡の先へ進んでみるしかありません。三方向の踏み跡のうち、ひとつは明らかに方向がおかしく、ひとつはほとんどヤブで、間違ってそちらに行かなように倒木が置いてあります。もうひとつも明らかに谷へ下っていき、間違ってたら登り返すのがうんざりですが、しかたないのでそちらへ進んでみることにします。

少し下ると水平方向へ進む道が現れました。踏み跡も多少はしっりしています。半信半疑にそこを行くと、やがて先端部で小さなコブを回り込みました。

そしてその先は…なんだかそれっぽいです。ここか!と思い登ってみました。

すると…ありました。祠がありました。山梨百名山の標柱もありました。

それにしても、なんとわかりにくい山頂なんでしょう。これではほとんど宝探しゲームです。

それにここ、先ほどの岩場ピークより標高が低いのです。なんの人工物もなかった岩場ピークが1700m、鶏冠神社と山梨百名山の標柱があるピーク(というか単なる尾根の先端部)が1690m。

山頂イコール最高地点ではなく、山頂は山頂にふさわしい場所にあるべきだという考えに、わたくしも賛成です。しかしそれにしても、ここはピーク感が不足しています。正面に大菩薩嶺が見えていて、展望はなかなかいいですが。

神社があることからもわかるように、古来からここが信仰の地であり、山頂とされていたのでしょう。

後日、調べたところによると、この鶏冠神社のあるピークが鶏冠山東峰、なにもないけど標高は高い岩場ピークが鶏冠山西峰とされているようでした。

ここでさらにややこしい話しがあります。

黒川山と鶏冠山をまとめてひとつの黒川鶏冠山とした場合、鶏冠神社のあるピークが黒川鶏冠山東峰、展望台が黒川鶏冠山西峰となるようです。なんの表示もなかった展望台が、いきなりの出世です。
それに、四つの中で最も標高の低い鶏冠神社ピークが黒川鶏冠山東峰となっています。そして、三角点もあり、古い黒川山の標柱があったピークが、なんでもないものにされてしまっています。

ここまで書いてきて、かなりややこしいなと思っているのですが、はたしてこれを読んでいる方々は、この話しに付いてきてくれてるんだろうかと不安になります。書いてる本人がよくわからなくなりつつあるのですから。

さらに最後に大きな疑問が残されています。

黒川山、鶏冠山、黒川鶏冠山のそれぞれに東峰と西峰があるのですが、では、それぞれの山頂というのは、東と西のどちらなのでしょうか。

謎は深まるばかりです。