あなたにとって登山とは何か? – 八王子山 / 茶臼山

私にとって登山は旅だ。

それは、まだ見ぬ景色をこの目で見たいという想い。ここではないどこかへ行きたいという衝動。同じ山に何度も登るより、知らない場所へ行ってみたい。距離的にも心理的にもできるだけ遠くがいい。

だが、週末の二日間だけでは行動範囲に限界があり、登ってみたい山が徐々に無くなってきた。

最近は映画を見たり本を読んだりの週末が増えた。映画も本も、街をぶらぶら歩くのも知らない店で食事するのも旅である。自分の中ではすべてが繋がっている。これはこれで楽しいのだが、やはり青空の下で緑の山を歩くのには、他では代え難い良さがある。

晴天の週末、八王子山に登った。東京ではない、群馬の八王子山だ。

八王子山からは、さらに先の茶臼山まで歩き、来た道を引き返す。

誰にも会わない。知らない場所をひとりで歩くのは楽しい。それがどんなところであってもだ。

時々、どうしてそんな誰も知らないような山に登るの?的なことを、嘲りを含んだ口調で言われることがある。そんな人にとって、登山とはいったいなんなのだろう。

ハイキングから始めた人が、数年後には山を走ったり、岩壁に登ったり、スキーで滑り下りたりしていることも多い。そういう人にとって、登山はスポーツの一種なのだろう。

それを否定するわけではない。それぞれが好きに楽しめば良いと思う。だが、同じ登山という行為の中で、見ている景色がこんなにも違うのかと驚くことはある。

まだ旅を終えたくなくて、下山の途中で反対側へ下り、地図で見つけた勝負沼まで行ってみることにした。

勝負沼は、周囲に大規模な太陽光パネルが設置された、改修工事中の冴えない沼だった。

ここで旅を終える気にはならず、なんとなく先へ歩いていくと石切場跡への入口があった。そこから再び山へ入り、その石切場跡へと向かった。

そこは、山の中にある古代文明の神殿のような異空間だった。

石切場入口の案内板によると、ここで採掘された藪塚石は、価格の安さと加工のしやすさに加えて鉄道が整備されたおかげで、大正時代には広く販路を拡大した。しかし、水に弱いのと割れ目が多いという欠点もあり、次第に大谷石にとって代わられ、昭和35年に閉山したという。

旅ってやっぱり楽しいな。知らない場所を歩くのはやっぱり楽しい。

今日は来て良かった。

下ってきた道を登り返し、尾根を越えて車を停めた籾山峠までもどった。

2023年4月