Go anyway – 黒斑山 / 蛇骨岳

雲の海に浮かぶ八ヶ岳連峰。最高の一日が約束された朝。

ここに来るまではかなり不安でした。朝になっても空はうす暗く、頭の上に広がってるのは重くて分厚い灰色の雲。天気予報はどうやらハズレのよう。登るのやめようかなって思いつつ車を走らせます。

山道に入り標高を上げるにつれて、空の色がしだいに明るくなってきて、車坂峠まで登り切る少し手前で、ようやく雲の上に出ました。

雲海の上は、すっきり晴れ渡った瑞々しい空。さっきまでの乗らない気持ちはどこへやら、早く登りたくてうずうずしてきます。

やっぱ来てよかったな。

朝まだ暗いうちから起き出して出かけるのは正直ダルいです。

前の晩はあんなに行く気満々だったのに、目覚ましが鳴るともっと寝ていたいと思います。仕事でも遊びでも、朝起きるのは辛いものです。

でも山なら、行ってしまえば楽しいこともわかっています。

無理して行ってもたいして楽しくない仕事には、がんばって起きて行くんだから、行けば楽しいのがわかってる山へ行かないって選択肢は、やっぱりありえません。

それでも、一週間仕事した週末の、早朝まだ暗いうちに起きるのは、かなりダルいですけどね。

そうして無理矢理にでも来てみれば、この通りのド快晴。これはやっぱり来てみなければわかりません。

八ヶ岳も南北中央アルプスも上越の山々も、なにもかもが全てどこまでも見えてました。

もちろん、すぐ目の前には浅間山が。

天気が良さそうな日を狙って来たので、当然と言えば当然ですけどね。黒斑山に登るのに、浅間山が見えないとがっかりですからね。

高速道路のサービスエリアから見た朝の空は、気持ちを萎えさせるにじゅうぶんな灰色でした。やめようかなとも思ったけれど、それでもやっぱりいちおう来てみてよかった。

やっぱ、来てみないとわかりませんね。

黒斑山まではトレースもしっかりしてて歩きやすく、写真を撮りながらゆっくり歩いてもコースタイム通りで到着しました。

しかし、そこから先はまっさらな雪の稜線。全く踏み跡がありません。

こうでなくっちゃ。

たいへんだけど、でもそれがいい。

黒斑山の山頂で一瞬だけ、ほんとにほんの一瞬だけ躊躇しましたが、立ち止まらずに先へ進みます。

とにかく行こう。

まだ誰も歩いてない雪の上へと踏み出します。

序盤は膝くらいの積雪で快調に進んでましたが、しだいに腰から胸まで埋もれるようになって大苦戦。目印もほとんどなく、どこを歩いたらいいかよくわかりません。

蛇骨岳までは危険なところもないし、尾根も狭いからルートもわかるだろうと安易に考えてました。しかし、崖すれすれは踏み抜きが怖いし、樹林帯側は雪が深過ぎて歩けません。

追いついてきたスノーシューのお兄さんに先頭をお任せして、後ろにくっついていきます。が、すぐに遅れてしまいました。

スノーシューの後ろをツボ足では踏み抜いてしまい、体力を使い果たしました。バテバテになってからようやくわかん装着。もう少し早くに付けてればよかったと反省。ほんのちょっとだけ反省ね。

便利な道具に簡単に頼らず、もう無理もうダメもう限界って心底思うまでは、できる限り自分の力だけで歩きたいって考える派閥に属してますからね。頼るのは最新装備ではなく、自分のチカラ。

それにしても、スノーシューってすごいな。ノートレースの稜線では最強ですね。

コースタイムの4倍近くかかり、スノーシューのお兄さんに30分以上遅れて、這々の体で蛇骨岳に到着しました。苦労した分、ここからの浅間山はより素敵に見えました。

登頂の喜びは、たどり着くまでの困難さに比例します。

風もなく暖かく、いつまでもいたい気分。静かで穏やかな時間が流れていきます。

やっぱ来てよかったな。

一歩を踏み出す勇気とチカラ。

とにかく行こうぜ。

布団で寝ている場合じゃないよ。