史上最低のアカヤシオ – 鳴虫山

山の花には「当たり年」がある。数年に一度、ある特定の花が盛大に咲き乱れるのだ。いつ当たるか、どの花が当たるかに法則性は見られないが、複雑な自然メカニズムの結果であるのは間違いない。

「当たり年」があれば「ハズレ年」もある。今年はどうやらアカヤシオがそれのようだ。「全然ダメ」「これまでで最低」なんて声が耳に入る。花が咲いてもすぐに落ちてしまうとも聞いた。加えて前日の雨で、もうすっかり終わってしまっただろう。

そんな鳴虫山のアカヤシオを、ダメダメだとわかった上であえて見に来た。他に行く山が思い浮かばなかっただけなのだが。

早朝の日光の町を抜けて、山に入る。山頂まではひたすら登りだ。

標高を上げていくと、登山道の両側がアカヤシオで埋め尽くされていた。が、花は付いてない。最終盤の花も地面に落ちて、踏まれて潰れている。

疎らに花の残る木もあるが、それがすべてだ。まあ、想定内である。

麓の天気は良かったが、山の上は霧に包まれていた。うら寂しさがさらに増す。

青空の下、満開のアカヤシオに包まれて歩くこの道は、さぞかし素敵なことだろう。そんな妄想で、山頂までの登りを乗り切った。

昼ごろには霧が晴れる予報だったので、万が一にも花が咲き乱れていたら粘るつもりだったが、これならそこまでしなくていいだろう。

わかって来てるのだから、別にガッカリもしない。こういう日があっても、それはそれで良いのだ。

だれもいない山頂にしばらく滞在してから、駅の方へと下った。

早朝から登ったからか、ここまで誰にも出会わなかったが、下山時には駅から登ってくる登山者と次々すれ違った。

2023年4月