肉とローメン

長野県伊那市には、ローメンという食べ物がある。知ってる人は知ってるが、大多数の人はまったく知らない、そんな食べ物だ。高速道路のSAで販売したりB1グランプリに出場したりと地道な普及活動は行われているが、いまのところ伊那市の外へと広まる気配はまったくない。

ローメンというからには麺料理だ。やや太めの茶色がかった中華麺は、水分含有量が少なくボソボソした食感である。蒸し置きで保存されているため、ボソボソ感がさらに増していて、ツルッとしたのどごしや、しっかりしたコシなどとは無縁である。

具は羊肉とキャベツだ。羊の代わりに牛や豚を入れたり、好みで肉の種類を選択できる店もあるが、硬くてボロボロの切れっ端のような羊肉を使うのが通常である。

伊那市は内陸にあるため伝統的に肉が食べられてきた。肉屋では羊肉の他、馬肉も普通に売られている。内臓類も一般的だ。馬刺しや”おたぐり”という馬モツ煮などの馬肉料理は居酒屋にもあるし、駅前には専門の料理店もある。

このボソボソ麺とボロボロ羊肉、キャベツを炒め合わせてソースで味付けしたものがローメンだ。つまりはまあソース焼きそばなのだが、一般的なソース焼きそばをイメージするとだいぶ遠い。ソースは水で薄めているのかと疑うほど薄味だ。

ローメンには2タイプあって、先の焼きそばタイプと、さらにそこへスープを注いで、麺がスープに浸っているタイプがある。このスープも、ソースをお湯で薄めたみたいに薄い味付けである。これを卓上の調味料で各々好きに味付けして食べる。ソース、唐辛子、酢、ごま油、ラー油、ニンニクあたりが定番だ。カレー粉を置いている店もある。

ローメンは麺量の表記にも特徴がある。並盛り、大盛りときて次は特盛りではなく超盛り、店によっては、超々盛りやさらに上があったりもする。大盛りくらいならたいしたことはないが、超々になるとけっこうな食べ出がある。ボソボソ麺の超々盛りだ。けっこう手強い。

さて、ここまで読んであなたは、ローメンを食べたくなっただろうか。私も伊那へ行った時はちょいちょい食べてしまうが、もし近所にローメンのお店があったとしても、そんなには通わないだろう。ローメンが伊那市を超えて広まらない理由もなんとなくわからなくもない。しかしこのローメンが、伊那市民には熱く迎えられているというのもまた事実なのである。