陽の光この身に浴びて輝く日 疑う余地もないほどの愛 – 大天井岳
なんだか空が明るくなってきた。
ガスに巻かれて真っ白だったので、テントを張って早々に、展望は諦めて夕飯のしたくをしてたのだが、慌てて見晴らしのいい場所へ行ってみる。
薄いピンクに色づいた空の下、槍から穂高へと続く稜線。
まるですぐそこにあるみたいで、手を伸ばせば触れられそう。
信じて来てよかったな。
ここまでそんなに楽ではなかった。
一ノ沢から常念乗越まで登り、常念岳の山頂までピストンしたら、体力をかなり使ってしまった。そこから大天井までの稜線は足が重かった。
すぐ近くの北アルプスの山々は見えているが、高曇りの空はどんよりしている。空が灰色だと気持ちも上がらない。気持ちが上がらないと体も動かない。
やはり天気は悪くなるのかなと考えていると、足取りはいっそう重くなる。天気予報はいまいちだったにもかかわらず、夕暮れと早朝は晴れるだろうと予想して来たのだが、失敗したかなって気持ちが湧き上がってくる。
大天井岳に到着したときにはすっかりガスが出て、周りの景色も全く見えなくなってしまい、諦めてテントを張って夕飯を作っていたのだった。
でもいま目の前にはこの風景。
裏銀座から後立山方面にもクリアな空が広がっていく。
まるで魔法にかけられたかのような時間がゆっくりと過ぎていく。
2900m近い稜線上なので、日が傾くと冷えてきた。でも、そんな寒さも気にならない。目の前の景色に引きつけられて動くことができない。
日が沈み、辺りが闇に包まれるまで、目の前の圧倒的な風景をじっと眺めていた。
翌日、夜が終わり朝が始まる少し前、槍から穂高の稜線もくっきり見えている。まちがいなく素敵な朝になるはずだ。
ゆっくりと大天井岳の山頂へ向かう。
どちらを眺めてもすごい景色が広がっている。
やがて東の空から新しい太陽が昇ってきた。
山が雪が岩がオレンジ色に染まる。
言葉にならない声が溢れる
この時間、この瞬間、体の中が新たなエネルギーで満たされる。
なんでもできそうな、すべてがうまくいきそうな、そんな気持ちになる。
新しく生まれ変わったような、そんな気分だ。
来てよかった。
この瞬間を得るためだけでも、山に登る意味があると思う。