天空回廊ヨボヨボ歩き – 大佐飛山

おー、ついにここまで来たか。

目の前に続く雪の天空回廊。ここを歩いていけば大佐飛山だ。

栃木百名山には四天王とされる山がある。大佐飛山、男鹿岳、黒岩山、錫ヶ岳の四山だ。四天王はどの山も登頂までの距離がとにかく長い。難しい箇所や危険地帯はないものの、体力持久力とともに長丁場を歩き切るメンタルも試される。

黒岩山と錫ヶ岳は以前に登っているので、未踏なのは大佐飛山と男鹿岳だ。この二山は薮山なので残雪期限定である。今回は大佐飛山に登りに来た。

「あれが山頂ですか?」

目の前の景色をぼんやり眺めていると、追いついてきた男性が話しかけてきた。

そう、あれが山頂。あそこまで歩けば登頂だ。

「あと少しですね」

うむ、ここまでずいぶん長かったのだ。

稜線に出て最初の山は三石山だった。三石山を越えると残雪が現れる。そこからサル山、山藤山を越えてようやく黒滝山だ。

黒滝山も栃木百名山であり、ここまでは登山道もある。つまりは黒滝山までで一回の登山としては十分の距離なのだ。しかし大佐飛山を目指すなら、まだ中間地点まで来たに過ぎない。

黒滝山を過ぎて、西村山、大長山と越えていく。ひとつひとつの山が大きい。最高地点の大佐飛山でも標高は1907mなのだが、とても2000m以下の山とは思えない。まるで南アルプスのようだと言うと少々大げさかもしれないが、雰囲気としては似ている。

大長山を越えると、ようやく天空回廊だ。あとは大佐飛山まで登るだけ。あと少しに見えるが、最後の区間がまた長い。しばらく歩いても風景がほとんど変わらない。山頂はまだ遠い。追いついてきた男性は力強く歩いていったが、私はよぼよぼとしか進めない。

ここまでは順調に来たのに、急にペースが落ちてしまった。あと少しだと思ったら、気が抜けてしまったのだろうか。体が重くて進まない。

最後の登りの途中でたまらず休憩した。すでに登頂した登山者が次々と下ってくる。重い足をなんとか上げて登る。あと少しなのになかなか着かない。先ほどの男性も下山してきた。もうほとんどの登山者は登頂して下山を開始している。

這々の体で登頂したとき、山頂に残っていたのは一組の登山者だけだった。その人たちも程なくして下山し、後には私一人だけとなった。

大佐飛山の山頂は樹木に囲まれて展望はない。苦労してここまで来たのにと思うかもしれないが、それはどちらでもいいことだ。登頂の過程も含めてすべてが登山体験なのだから。とはいえ過程だけでは登山は締まらない。山頂を目指す必要がある。山頂を目指すことで登山に必然性ができる。その上で、準備や過程も含めたすべてが登山なのだ。

せっかくなのでゆっくりしたいが、そうも言っていられない。なにせまだ半分が残っている。下山とはいっても、ただ下るだけではすまない。途中でいくつもの山を越えなければならない。山と山との間も地味に長い。ぐずった雪に足を取られて体力を消耗するだろう。この後は誰も登ってこないから、私が今日のしんがりだ。

稜線の下降地点までもどってきた時は、すでに日没時間だった。ほんとはこの先の百村山に立ち寄ってから下山する予定だったがどうしよう。常識的には早く下山するべきだ。

迷ったけど行くことにした。すでに日は沈んでいるが、まだ周囲は見える。地図を見ると5分ほどで行けそうだし、大きな登りもない。ここで行っておかないと、二度と来ることはないかもしれない。

向かってみるとあっさり百村山に着いた。あまり山頂らしくない平坦な場所だった。

あとは下降地点までもどって下山するだけだ。樹林帯はすでに暗いだろう。ヘッドライトを用意しておこう。

長かった一日もまもなく終わる。

2026年3月