TOKYO八王子名山縦走記 part2 後編 – 向山 / 明王谷戸ノ頭 / 天合峰 / 金比羅山

ヒトッ石山を後にして向山を過ぎた。ダラダラとした下りが延々と続く。ダラダラと登ったり下ったりなので危険なところはないのだが、尾根の分岐が多くて迷いやすい。歩きやすいので呑気に歩いてしまうが、道なりに進んでいると間違った尾根に入ってしまう。なんの目印も無いから、いちいちGPSを確認しないと簡単に遭難するだろう。

GPSは便利だ。地形図とコンパスというロストテクノロジーでこの尾根を下るのは、かなりめんどくさく不確実でもある。人のいないマイナー尾根を気軽に歩けるのもGPSあってこそである。だが、それでいいのだろうかと思わずにはいられない。なんだか機械に歩かされているような、登山の楽しみの一部を失ってしまったような気持ちにもなる。だったらGPS使うなよと言われるかもしれないが、地形図とコンパスはやっぱりめんどくさいんだよう。

里に下って牧場の脇を通り過ぎ、幹線道路に出たら北へ向かう。この道路の最高地点の戸沢峠から再び山に入るのだ。峠越えの道といっても道幅も広くセンターラインもある。交通量も多く、大きなカーブも起伏もないから、車はけっこうなスピードで通過していく。

戸沢峠と思われる場所に着いたが、どこから山に入ったらいいのかわからない。道路脇は崖だ。峠の手前の山肌に登山道らしき道筋が見えていたのだが、大規模な工業団地の建設用地の中にあり、高いフェンスで囲われていて入ることができなかった。

これはもしかしたら登山不可能なのか? うろうろしていると、崖にロープが垂らしてあるのに気づいた。よく見ると踏跡らしきものも付いている。しかし崖だよ。これを登るのか? もしもロープがなかったら、ここを登ろうとは思わないだろう。というかロープなしでは登れない。それにここは幹線道路の脇である。車がひっきりなしに通過していく。もしも運転中に道路脇の崖を登ってる人を見たらなんと思うだろう。下手したら通報されかねない。

交通量が途切れたスキを見計らい、ロープを掴んで一気に登った。登ったところが明王谷戸ノ頭だ。

この明王谷戸ノ頭はTOKYO八王子隠れ名山のひとつである。TOKYO八王子隠れ名山!八王子名山だけでは飽き足らず、八王子隠れ名山なんてものまで制定してしまうとは。しかもTOKYO八王子隠れ名山は52山もある。TOKYO八王子名山の36山でさえかなり無理矢理なのに、どこにそんなに名山があるのだろう。

地図で確認すると、52山のうち3分の2は市街地にあった。市街地だ。山の中の集落ではない。普通に住宅地にある。そんなの公園じゃないかと思うが、ほんとに公園だった。上柚木公園や平山城址公園など、公園と名の付く名山が12も含まれている。公園ならまだいい。散田給水所なんてのもある。給水所は確かに周囲より高い場所にあるだろうが、住宅地に隣接しているはずだ。いや、給水所でさえまだマシかもしれない。ひどいのは野猿峠バス停だ。バス停!どこの世界にバス停を名山にしている自治体があるというのか。自宅から近いのでよく知っているが、当然ながらバスの走る幹線道路のバス停である。センターラインもある広い道だ。私も車で何度も通過しているが、それで登頂したことになるのだろうか。

しかしそれでも内心ちょっとホッとした。TOKYO八王子名山36山とTOKYO八王子隠れ名山52山を合わせても88山にしかならない。公園に給水所にバス停まで加えてがんばっても100にはできなかったようだ。TOKYO八王子百名山なんてのが制定されていたら、全国に向けて恥をさらすところだった。

明王谷戸ノ頭を過ぎて歩いていく。標高もだいぶ低くなって300mを切っている。起伏もほとんどなく、ゆったりのんびり歩いていく。稜線の右側はずっと大規模工業団地の開発地で通行止めの表示が錯綜しているが、稜線を進んでいく分にはとりあえず問題ない。

本日最後のTOKYO八王子名山、天合峰に到着した。あとは下山するだけだ。

南側へ下山したいのだが、どこまで行っても工業団地の開発地である。金比羅山まで来たが、南側はフェンスで囲われていて降りることができない。さすがにこのフェンスを乗り越えて工事中の開発地区に侵入はできない。

どうしようもないので、南側に下山するのは諦めて北側に降りた。下山したのは陸の孤島のような場所だった。

ここからどうやって帰るのだろう。最寄りの駅まで何kmあるのだろう。もう歩きたくない…。

集落を抜けて幹線道路に出ると、八王子駅行きのバス停があった。時刻表を見るとバスは出たばかりだったが、次のバスが20分後に来る。こういうところは、さすがいちおうTOKYOだ。

自販機で買ったCCレモンを飲みながら、バス停の横に腰を下ろして、今日一日を振り返りつつバスを待った。

2026年3月