栃木百名山爺オススメの山へ – 塩沢山

栃木百名山爺と別れてから南へ向かって車を走らせた。10分もすると右手に誰もいない公園があったので、車を停めて歩いて探す。たぶんこの辺りのはずだ。

片側一車線の国道に沿って歩いていくと、登山口を示す看板があった。爺が言ってたのはこれだな。

塩沢山は、芝草山で出会った栃百爺がお勧めしてくれた山のひとつだ。車で10分くらいだし、2時間半で登れるから帰りに寄るといいとのことだった。道路沿いの大きな木の看板が目印だと言っていたが、これはどう見ても大きくはない。爺は徒歩だから見逃さないかもしれないが、車だと通り過ぎてしまう。

歩き始めてすぐに、ここはあまり歩かれてない山だとわかる。道が踏み固められてなく、ふわふわなのだ。そして、しばらく行くと踏跡が消えた。

またかよ、まだほとんど進んでないぞ。

道を探してうろうろしていると、沢の反対側に熊避けの鐘が見えた。沢を渡ったものの、対岸にも踏跡はない。笑っちゃうくらいない。

すり鉢状の涸沢の底にいて、どちらの方向も急登だ。なんとなく付いている踏跡を辿っても、すぐに消えてしまう。そのまま登っていこうにも急傾斜で進めない。

しばらく右往左往してようやく、これは涸沢をジグザグに登っていくんだと理解した。踏跡が消えているところでターンすれば良いのだ。元々は登山道があったのだが、誰も登らないし手入れもされないので流されて消えてしまったのだろう。

沢の上に出ても困難は続いた。尾根に乗らずにトラバースして別の尾根に乗ったり、トラバース路からいきなり斜面に取り付いてジグザグに登ったり、踏跡はほとんど見えないので、登りやすそうな場所を探して進むしかない。目印なんてまったく無い。GPSに頼らないと方向を見失ってしまう。

それにしても栃百爺よ、たいがいな山を勧めてくれたな。

人の気配がしない。登山口に車はなかったし、公園の駐車場にも車はなかった。下ってくる人もいない。落ちている栗はイガだけで、実がまったく残っていない。すべて熊が食べたのだろう。いまこの山にいるのは、人間一人と多数の熊だ。

ようやく山頂に続くわかりやすい尾根に乗った。あとは広々とした尾根を進んでいけばいい。それにしても、ここまでずいぶん時間かかったな。

道は分かりやすくなったが、ずっと登りなのは変わらない。とにかく一歩づつ進んでいくしかない。

背の高いカラマツに覆われた薄暗い森と笹の下草、どこか南アルプスの樹林帯を思い出させる山だ。南アルプスと違うのは、どれだけ登っても森林限界を超えないところだ。

そうして一途に登り続けて、樹林の中の山頂に着いた。展望はない。さすが栃百爺の勧める山だ。ここにはマニアしか来ないだろう。

前半で手間取ったのもあり、山頂まで三時間かかった。爺は二時間半で登れると言っていたので、二時間半で終わる山だと思って来たが、そういえば爺はどの山でも山頂までの時間しか言わなかったな。まったく、下山するまでが登山なんだぜ。

栃百爺のニヤケ顔が脳裏に浮かんだ。

下りもまあまあ時間かかるだろう。なにせ間違えやすそうなポイントは無数にあったのだから。

山頂にあった熊避けの鐘をけたたましく打ち鳴らしてから、帰り道に取り掛った。

2025年9月