憧れのヨーロッパ軒でカツ丼を食べる – 福井
カツ丼と言えば卵とじの地域で育ったので、初めてソースカツ丼に出会ったのは成人してからになる。初めてソースカツ丼を食べたのがどこだったかは覚えてないが、すごく損した気分になったのだけは記憶に鮮明に残っている。トンカツにソースかけただけじゃないかと。
長野、福島、北関東、秩父と、ソースカツ丼地域には登山で訪れることが多い。下山後にしばしば食べているうちに、いつしかソースカツ丼好きになり、今では卵とじカツ丼よりもずっと好きだ。卵とじカツ丼は、卵も出汁も余計だし甘くてくどいと感じるようになってしまった。
あちこちで食べているうちに、一口にソースカツ丼と言っても地域によって違いがあることにも気づいた。
肉の厚いもの薄いもの、ロースなのかヒレなのか、ソースに酸味があるもの甘いもの醤油感のあるもの、ソースをかけるかソースにくぐらせるか、あるいはソースで煮込むのか、キャベツの有り無しにも地域性がある。
全国のソースカツ丼地域でソースカツ丼を食べてきたが、唯一未食なのが福井だ。福井はソースカツ丼発祥の地とも言われており、ソースカツ丼愛好家としては食べておかないわけにはいかない。
福井でソースカツ丼を食べるなら、まずはヨーロッパ軒しかないだろう。福井ソースカツ丼の本家中の本家だ。

ヨーロッパ軒のソースカツ丼は肉が薄く、パン粉がきめ細かい。これこそ正しく洋食の流れを汲んだ、ある意味原初のカツ丼である。
明治時代のポークカツレツは、叩いて伸ばした薄い豚肉にきめ細かなパン粉をまぶし、フライパンで揚げ焼きにしたものだった。それが後に、多めの油で泳がせるようにして揚げるという工夫によって同時大量調理が可能になり、肉を厚くすることもできるようになった。こうして生まれたのがトンカツである。
ヨーロッパ軒のカツ丼は、トンカツを飯にのせた数多のカツ丼とは一線を画した、ポークカツレツのカツ丼なのだ。
カツの下にキャベツはない。カツの下に千切りキャベツを敷くのは、カツと飯の一体感を阻害するので絶対にない方がいいと思う。ソースは酸味のあるクラッシックなタイプだ。なにからなにまで古典的な美味しさを保っている。素晴らしいという以外にない。
カツだけではなく、飯にもソースがかけられていた。そして「足りなければお使いください」と言って、小皿のソースも添えられる。どんだけソース好きなんだと思うが、これもソースの味への誇りからくるのだろう。
昨今、ライバル店に差をつけるためか一部のソースカツ丼店密集地域では、カツ丼のカツは非常識に分厚くなり、ソースの味は食べづらいほどに濃く甘くなりがちな傾向がある。しかし福井ではヨーロッパ軒のがんばりによって、古の洋食スタイルのカツ丼が生き延びているようだ。喜ばしい限りである。

ヨーロッパ軒は暖簾分けで店舗を増やしていて、福井県内に19店舗がある。暖簾分けなので、各店舗のメニューは微妙に異なっている。
本店とは別の店舗で、「玉子かけカツ丼」というものがあったので、試しに注文してみた。玉子とじではない、玉子かけだ。
ヨーロッパ軒の特徴的な薄切りポークカツレツに、完全には固めていないトロトロの玉子餡がかかっている。玉子丼や親子丼のような玉子だ。いやな予感がしつつ口に入れると、やはり…。ソース味ではなく和風の味付けだった。和風出汁に醤油と味醂で味付けされていて、ほんのり甘い。日本各地にはソース味の卵とじカツ丼も点在するので、その一派を期待したが、違ったようだ。
井之頭五郎なら「こういうのもあるのか…」と呟きつつ食べるところだが、いまやすっかりソースカツ丼愛好家の私は、「いや、そうじゃない、ソースを!ソースをくれ〜」と嘆いてしまった。だって、せっかく福井までソースカツ丼を食べに来たのだからさ。
どうやらこのメニューは、ソースの苦手な人向けに用意されているらしい。まあ、それなら和風でしかたないよね。ソースの苦手な人がわざわざヨーロッパ軒に来るのか?とも思ったが、地元民が三世代家族総出で食事している光景を見かけたので、そういう需要もあるのだろう。

ヨーロッパ軒はカツ丼やパリ丼といった丼ものばかりが注目されるが、本来は洋食店である。丼もの以外のメニューも豊富だ。
ポークカツレツやエビフライといったフライものが多いが、ポークチャップやビーフステーキにハンバーグもある。スパゲッティやオムライスもある。ヤキメシというそそられるメニューもある。Aランチ、Bランチもある。
今回は食べる機会のなかったパリ丼はぜひとも食べてみたいが、それ以外の洋食メニューも試してみたい。
2025年10月






