鹿児島で酒を呑む、南国鹿児島には旅情があふれていた

鹿児島まで来ると南の国に来たなあって感じる。なぜだろう? カラッと晴れた穏やかな気候がそう思わせるのか、それとも広く開けた空の解放感のせいだろうか。とにかくここには他の街では感じない南国の空気が充満している。

そしてなんといっても桜島だ。緩やかな裾野の優美な山は、今日も噴煙を上げながら海に浮かんでいる。そういえば以前に来たときもこんな晴天の日だったな。

奄美大島、喜界島、屋久島、種子島…。港に停泊しているフェリーの行き先が激しく旅情をかき立てる。いいな、行ってみたい。あの船に乗って南の島々へ。

そう、ここは南の果てではない。さらに南の島々へと続く海の道への出発地なのだ。

天文館というアーケード街が鹿児島の繁華街だ。JR駅とアーケード繁華街を路面電車が繋ぐのは熊本と同じ街の作りである。もっとも熊本駅とは違って、鹿児島中央駅周辺は新たな繁華街としてにぎわっているという。

路面電車の運行とともに発展してきた天文館は、今ではやや寂れつつあるとはいえ、商業地としても歓楽街としてもまだまだ十分に現役だった。

創業が宝暦元年(1751年)まで遡るという老舗百貨店の山形屋も、年始の買い物客で賑わっていた。

ぶらぶら歩きながら夕飯に良さげな店を探す。もともと居酒屋的な店があまり多くはなさそうなうえに、正月二日では営業してる店が見つからない。天文館をあちこち歩いたが、それっぽい店は一軒しか見つけられなかった。店頭のメニューを確認してから入店した。

カウンターなら…ということで通されたのは、カウンターとは名ばかりの調理台の端っこだった。テーブル席にはグループ客を座らせたいのはわかるので文句はないのだが、調理台の下には足が入らず座りにくいことこの上ない。股を大きく開くか、両足をそろえて体を横にねじるかしないと席に着けないのだ。まあ、正月二日だしな。食べさせてくれるだけで十分だよ。

それよりもショックだったのは、目当ての料理がなかったことだ。鹿児島ではぜひとも「とんこつ」を食べてみたかった。とんこつラーメンではない、とんこつという名の料理だ。骨付きの豚肉を味噌で煮込んだ料理で、今回のとんこつラーメン探求の最後を飾るにふさわしい一品でもある。

それなのに…店頭メニューにあったので入ったのに、店内のメニューではとんこつが消されていたのであった。だったら店頭メニューからも消しといてくれよと思ったが、まあしかたない。

気を取り直して、まずはキビナゴの刺身から始めた。鹿児島の魚といえばブリやカンパチもいいが、やはりキビナゴだろう。キラキラ光った帯模様が美しい。醤油ではなく酢味噌が添えられていたが、鹿児島では酢味噌で食べるのが一般的だそう。

続いて地鶏の刺身。刺身が二品続いてしまうけど、取り合わせにはあまりこだわらず食べたいものを注文することにしたのだ。

実に立派な食べでのある刺身が出てきた。コリコリやふわふわなど部位によって食感が異なる。鳥肉の生食に対しては批判もあるが、そういうことは気にしない。地元民が飲み食いしてるものは基本的に安全だと信じている。

添えられた醤油は当然のように、とろりと甘い九州醤油だった。これは馬刺しだけでなく鳥刺しにも合う。なんなら魚介類の刺身もこれでいいくらいだ。

あとは鹿児島らしいものとしてつけあげを食べた。つけあげというのはいわゆるさつま揚げのことで、鹿児島ではこう呼ぶのが普通だ。

もう30年近く前のことになるが、フェリーで沖縄へ渡るために鹿児島まで来た。その日の夜、市内の適当な居酒屋で食べたつけあげのあまりの美味しさに、いままで食べていたさつま揚げはいったいなんだったのか、これからはすべてのさつま揚げをこれにしてほしいと思ったのを今でも覚えている。

初めてつけあげを食べた新鮮さのせいか、それとも思い出補正なのか、あの時のつけあげと並ぶものには今だに出会えていない。とはいえ、つけあげはどこで食べてもさつま揚げとは比較にならない美味しいものではある。

店を出て良い気分で街をふらふらしていると、いつしか明るい繁華街から外れて薄暗い通りに入っていた。ふと気づくと、暗がりの中に一軒の良さげな居酒屋があるではないか。店を探している時は、こっちの方にはなにもなさそうだなと思い、ここまでは来なかったのだ。

店頭メニューを確認すると、あるではないか。とんこつがあるではないか。それもメニューの一番初めに他の料理よりも大きな文字で書いてある。まちがいなくこの店の看板料理だ。

うー、しまった。すでに〆のラーメンも食べてしまった。がんばれば食べられなくもないが、ここで無理やり口に入れてもあまり美味しくないのは明らかだ。

しかたがない、いつか再び訪れる日のためにマップにピンを立てて、今回はよくばらずあきらめることにしよう。

また鹿児島まで来なくちゃいけない理由ができたな。

2025年1月