熊本ラーメンは焦がしニンニク油だった – とんこつラーメン放浪記 6
都内でも熊本ラーメンは食べられる。熊本市内で数店舗を展開する『桂花』が新宿、渋谷、池袋などに支店を出しているからだ。以前に食べたことあるが、焦がしたニンニクの香りが強烈なラーメンだったと記憶している。
今回のとんこつラーメン探求でも食べてみたのだが、感想は以前とまったく同じ。焦がしニンニク油の香りがすべてを支配していて、とんこつスープがどうのこうの麺がどうのこうのというところまで意識が回らない。
はたしてこれが熊本スタイルなのか、他の店はどうなのか、ほんとにこれでいいのだろうかという疑問を抱きつつ熊本にやって来た。熊本駅構内の食堂街には二軒のラーメン店があり、そのうちの一軒は『桂花』だったので、もう一軒の『天外天』で食べてみることにした。
スープをひとくち飲んでみる。あれ?焦がしニンニク風味じゃないぞ?予想よりも上品な味わいだ。熊本ラーメンには焦がしニンニク油がマストというわけでもないのだなと思ったが、そんなことはなかった。
仕上げにふりかけのようなものをラーメン全体にかけていたが、それは狐色に焦がしたみじん切りのニンニクだった。たっぷりかけられた焦がしニンニクふりかけは、混ざらないよう注意して食べてもすぐに全体に広がっていき、たちまち記憶のあの味がよみがえる。焦がしニンニク油と焦がしニンニクふりかけではウエットとドライの違いはあれど風味は変わらない。上品だと感じたラーメンは、とたんにジャンク感が増した。
卓上のトッピング類はふたつあり、ひとつは紅生姜でもうひとつはなんとスライスしたニンニクの醤油漬け。ここへさらにニンニクを加えるのかよ、どんだけニンニク好きなんだ熊本人。
『天外天』はいまどきの熊本ラーメンと感じたので、もう一度の機会には昔ながらの庶民的な店を探した。訪れたのは『大黒』、市内中心部からは距離があり、地元濃度の高そうな店だ。
券売機を観察すると、ごはんやおにぎりの付いたラーメンセットがあった。そういえばこういうセット売りは今のところ九州では見ていない。せっかくなので、ごはんともつ煮の付いたセットにした。
ラーメンは、食べる前からわかっていたが、例の焦がしニンニク油の香りがぷんぷんだった。なにせ店に入ったときから匂っていたのだから。やはりこの焦がしニンニク油風味が熊本人の好みのようだ。スープは博多に比べるとややとんこつが濃い気がする。焦がしニンニク油に負けないように濃いめになったのだろうか。
大盛りはあるが替玉はない。卓上にはゴマも紅生姜もない。いまどきラーメンの天外天は替玉方式でトッピングもあったけど、大黒にはどちらもない。トッピングや替玉は福岡で産まれて各地へ伝搬したという説が正しいとするなら、その影響を受けた時期のズレがこうして現れているのかもしれない。
とんこつラーメンにも歴史と浪漫がある。
2024年12月