ラーメン居酒屋で飲んだくれた夜 – とんこつラーメン放浪記 4

博多ではラーメン屋を居酒屋として使うのも普通だ。餃子やチャーシューといったよくあるつまみだけではなく、本格的な居酒屋料理をそろえてるラーメン屋も多い。居酒屋側でも負けじとラーメンを用意していて、これがまた本格的なとんこつラーメンだったりもする。ラーメン屋の料理、居酒屋のラーメンの双方が高レベルなのだ。居酒屋として使えて〆のラーメンも食べられるこういう店のことを勝手にラーメン居酒屋と名付けた。飲みも〆も一軒で完結するから迷いがない。

ラーメン居酒屋は東京にもある。九州の店の支店もあるし、九州出身者の個人店もある。だが東京の人にはラーメン屋で飲んだくれるという発想があまりないのか、飲みよりも食事だけの客が多いように見えた。ラーメン屋で何杯も酒を飲んだり、〆のラーメンを居酒屋で食べたりというのは、やはり博多の文化なのだろう。

ラーメン居酒屋を代表する料理といえば、まずはなんといっても餃子だ。

博多の餃子はひとくち餃子とも言われる小型の餃子で、たっぷりの油で揚げるように焼かれている。カリカリサクサクいくらでも食べられてしまう。

豚バラの串焼きもラーメン居酒屋のよくあるつまみだ。

焼いているのは豚肉でも「やきとり」という。串に刺して焼けばなんでもやきとりなのだ。ソーセージのやきとりもある。

酢もつも博多ではどこの居酒屋にもある料理だ。だいたいどこの店にもあり、メニューの最初に載っていることも多い。

他の地域ではあまり見ることはないけど、県内で酢もつを知らない酒飲みはいないだろう。

酢もつは、その名の通り茹でたもつの酢の物で、使われるもつはなぜかほぼガツだ。茹でたガツを細切りにして青ネギとともにポン酢で和えている。柚子胡椒が添えられることが多く、これが酢もつとバツグンに合う。

その他にも、ゴマサバや明太子出汁巻き卵、ガメ煮といった博多っぽい料理が、いわゆる居酒屋料理とともにメニューに並ぶ。

〆はもちろんラーメンだ。今回福岡で入った『うま馬』という店は、博多ラーメンの源流店のひとつ『三馬路』の味を受け継いでいるという。

スープは茶色で醤油風味、油は少なくさっぱりしていて麺は平打ちの細麺と、博龍軒のラーメンによく似ている。現代風なレア気味のチャーシュー以外はほぼ同じだ。博龍軒と同様に卓上トッピングはすりゴマのみでメニューにワンタンメンがある。これが源流だとすると、博多ラーメンの発展のどこかの時点でスープは白濁し、麺は極細の丸麺になり、すりゴマはいりゴマになり、トッピングに紅生姜が加わってワンタンは消え去ったのだろう。

うま馬では、源流博多ラーメンとともに現代風の博多ラーメンも用意していた。

メニューの解説を読むと、現代博多ラーメンは源流のスープに豚足や骨髄を煮詰めた濃厚白湯を加えて、コクのあるクリーミーなスープに仕上げたものだそうだ。

博多は大都会だ。二軒目はどこへ入ろうかと吟味しながら、にぎやかな夜の街をぷらぷら歩く。

天神の屋台にするか吉田類が飲んでいそうな居酒屋にするかと迷いながら、二軒目もラーメン屋に入ってしまった。最初に入った『うま馬』はラーメンも出してる居酒屋だったけど、二軒目の『一心亭』は酒も飲めるラーメン屋だ。酒も飲めるラーメン屋と書いたが、ほぼ満席の店内をざっと見回してみても飲んでない客は見当たらなかった。家族連れで親だけ飲んでて子供は飲んでない(当然)というパターンはあっても、ラーメンだけ食べてサッと帰る客はいそうにない。全員が完全に居酒屋使いだ。

一軒目でラーメンを食べたのに二軒目もラーメン屋に入ってしまったのは、おでんの幟に誘われたから。福岡おでんの特徴的なタネである餃子巻きを食べてみたかったのだ。だがしかし、なんとがっかり餃子巻きはなかった。餃子巻きというのは餃子を具にした練り物で、食べなくてもなんとなく味の想像はつく、でも食べてみたかった…。

おでんの他は、酢もつ、ギョーザ、とん足、やき豚とあったのでとん足を注文した。茹でた豚足を炭火で焼いてぶつ切りした豪快な料理だった。

こんなの食べる人いるのかなと思ったら、カウンターの隣の兄ちゃんが熱心に食べているのがこれだった。その後もあちこちの卓から注文が入っていた。東京だったら不人気メニューになりそうだけど、博多はやっぱり違うな。そういえば都内のラーメン居酒屋のメニューで豚足を見た記憶がない。

いい気分で飲み食いしてたが、よくよく考えると一軒目でラーメン食べたのに二軒目でも〆にラーメンを食べるのだろうか。ラーメン食べないと怒られるってことはないと思うけど、ラーメン居酒屋でラーメン食べずに帰るのはありかなしか。このあたりはできる限り文化を尊重したいので迷う。

ラーメン食べずに帰る客がいたら自分もそうしようと考えたものの、そんな客はいなかった。みんな律儀にラーメンで〆ていく。隣でずーっと酒を飲んでる兄ちゃんに期待したけど、いくら酔っても最後にラーメンを注文していた(しかも替玉もしていた)。観念して自分もラーメンで〆ることにする。一軒目で替玉してないから、替玉ありで一杯食べたのとそう変わらないからまあいいかということにしておく。

出てきたラーメンは当然ながら源流スープではなく、白濁した博多ラーメンだった。仕上げにどろっとした白いものをお玉ですくってかけていたが、あれが豚足や骨髄を煮詰めた白湯なのだろうか。クリーミーだけどあっさりしている。トッピングは白ゴマと紅生姜、高菜もあるが有料だった。辛子高菜は他の店でも有料オプションしかなく、無料で入れ放題なのは本場スタイルではないようだ。替玉無料ももちろん見たことがない。

ラーメンが提供されると同時に伝票が置かれた。やっぱり最後にラーメン食べるのが当然ということなんだろう。

満腹の腹をさすりつつ、いい気分に酔っぱらって、夜の街を歩いて帰った。

2024年12月