Brand-New Year – part1 国見岳

2023年の元旦は島原の海で迎えた。残念ながら水平線上の分厚い雲で初日の出を拝むことはできなかったが、振り返ると雲仙岳の頂がモルゲンロートに染まっていた。

あそこへ登るのだ。

登山口まで車で移動して、ゆっくり目に登山開始した。

時間をずらしたのは、初日の出が目的の登山者で混雑してると予想したからだ。案の定、下山してくる人と次から次へとすれ違う。後に聞いた話だと、初日の出はバッチリだったが、普賢岳の山頂は人でいっぱいで、入り切れない人が溢れていたそうだ。

仁田峠を過ぎると誰もいなくなった。静かな山を登っていく。

妙見岳の山頂で初詣をすませ、周回ルートを先へ進む。

積雪はたいしたことなく、せいぜい足首くらいだ。日が当たる場所では完全に溶けている。起伏も緩やかなので、アイゼン無しでも普通に歩ける。

国見岳への登りでも、途中の20mほどの岩場にはまったく凍結もなく楽々と登れた。しかし、山頂直下の1m程度の岩場は日が当たらず、氷が張り付いていて上がれなかった。無理して登ると危なそうだ。

狭い登山道にザックを下ろしてチェーンスパイクを装着していると、単独のお姉さんが追いついて来た。

「アイゼン着けるか難しいですよね〜」

そういうお姉さんもアイゼン無しだが、無駄のない動きで岩場をひょいっと超えて行った。

強いな。体もやわらかいし。

国見岳の山頂では、お姉さんに頼まれて写真を撮った。お姉さんは、様々にポーズをキメている。SNSにでもアップするのだろうか。

「写真、撮らなくていいんですか?」

首を横に振る。自分の写ってる写真なんて見たくもないし使い道もない。

「どこから来たんですか?」

この質問は苦手だ。なんとなく東京とは答えにくい。コロナ禍以降はなおさらである。曖昧な笑みを浮かべていると、お姉さんは言った。

「遠くからですか?」

首を縦にふる。それ以上は聞かれなかった。

国見岳は雲仙の周回ルートから外れているので、分岐から山頂ピストンして再び周回ルートへ戻ることになる。しかしお姉さんは、山頂の反対側へ降りて周回ルートに復帰すると言う。昔は道があったらしいが、いまではすっかり廃道で歩く人もいない。当然トレースも無い。

大丈夫かな?と思ったものの、余計なことは言わずにお姉さんと別れた。

つづく