New Shoes

「これは直せんな」

えーーー!!!

登山靴のソールが剥がれたので、修理に持ってきたというのに…。場所は、オーダーメイド登山靴で有名なあのお店だ。

ソールを張り付けるだけでしょ?なんで修理不能なのよ…。

わたくしの登山靴を曲げたり折ったり引っ張ったりしてた店のオヤジによると、力がかかり過ぎて靴底の靴本体側が潰れてペシャンコになってるので、ソールと縫い合わせられないのだという…。

「何十年も靴を作ってるが、こんなにした人は初めて見た」

そう言って、なんとも嬉しそうな顔をする。そりゃそうだろ。修理できなきゃ、新しいのを買うしかないもんな…。

軽登山靴じゃまた潰れるだろってことで、重くて固そうな重登山靴を勧められた。三ヶ月かかるオーダーメイドは待ってられないので、店の在庫から足に合うのをお持ち帰りした。予想外の痛い出費だ。

こうして、新しい登山靴が我が家へやってきたのであった。

陣馬高原下でバスを降りると、おニューの登山靴に履き替えた。重登山靴を家から履いて来るのはつかれるので、リュックに入れてきたのだ。

よたよたと歩き始める。固い靴底の靴では、ロボット歩きになってしまう。

小一時間で陣馬山へ到着した。

もうすでに、このクソ固い登山靴にうんざりしてるのだが、しかたないので先へ進む。

固くて重くて、まるで大リーグボール養成ギブスのようだ。だんだん重さには慣れてきたが、硬い靴底はやはり歩きづらい。安定はするけど軽快さが皆無だ。

よたよたと縦走路を歩いていると、トレイルランナーどころかハイカーにも抜かされまくる。

景信山は賑わっていたので、葉っぱの天ぷらはあきらめて通過し、城山で休憩した。有名なデカかき氷で体を冷やす。

食べても食べてもなくならないなんてシアワセ〜と食べ進んでいったが、半分を過ぎると寒くなってきた。冷たくて舌も痺れる。まさかカキ氷で寒くなるとは思わなかった。

その後もロボット歩きで進み、高尾山から下山した。

後半はずっと、このクソ重くてクソ固い靴を早く脱ぎたいという思いで、一心不乱に歩き続けた。靴慣らしに来てるのだから、リュックの中のいつもの運動靴に履き替えるのだけは、強靭な意志の力で思いとどまった。

下山して靴を脱いだときには、心底ホッとした。

温泉で汗を流し、この苦行に耐えた自分を、冷たい生ビールでねぎらった。

これからこの靴で山を歩くのかと思うと気が重い。