どれだけ歩き続けたら、たどり着けるのだろう

北アルプスから帰ってきてから、なんだか気持ちが晴れない。なんというか、なんともやる気が出ない。

仕事のやる気はもともとないが、山に登る気にもならない。無理やり登ろうと思うも、近場の低山では気が進まない。近場の低山だって楽しくないわけではないが、五日間の縦走のあとでは、なかなか日帰りハイキングの気分にはならない。

それでも、家でじっとしてるよりはいいか、と出かけることにした。
あんまり近いとあんまりなので、御坂山地まで行く。新道峠まで車で行けば、すぐに稜線だ。ほとんど登らずに稜線に出られる。ちょろっと歩いて黒岳へ行こう。

なぜ、家にいるより登ったほうがいいと思ったかといえば、天気予報がよかったからだ。実際に、この日の高山はなかなかの天気だったらしい。だが、標高1800m弱の黒岳山頂は、まったくガスの中だった。いちおう展望台まで行ってみたが、当然のようになにも見えなかった。

とぼとぼと新道峠までもどった。時刻はまだ朝の7時を少し回ったくらい。仕事の日なら、そろそろ起きる時間だ。これで帰るのもあんまりなので、節刀ヶ岳まで行くことにした。せっかくなので、歩いてないこの区間をつないでおきたいという気持ちもあった。

御坂山地らしいら穏やかな稜線が続く。傾斜は緩やかで、樹木の背は低い。縦走よりは散策と言ったほうがしっくりする。このくらいの山歩きが、今日の気分にはちょうどいい。

あまりピーク感のないピークを超えていく。雲が切れると、薄っすらと富士山が現れる。

いくつかのゆるいピークを越えると、見覚えのある分岐に着いた。ここから節刀ヶ岳へ向かう。分岐から山頂までは見晴らしのよい道だ。天気がいい日なら、なかなかの景色が広がっているはずだ。

すぐに節刀ヶ岳に到着した。ここに来るのは何年ぶりだろう。十二ヶ岳が見えている。以前はあっちから来たんだった。右手には鬼ヶ岳。あそこなかなか好きなんだよな。

行くか。あそこまで。

じゅうぶん歩いたし、目的も果たしたし、気分も上がらないので、ここで引き返してもいいのだが、まだお昼にもなっていない。なんとなくまだ帰りたくないので、もうちょっとだけ先へ進んでみる。

金山で十二ヶ岳からの道と合流し、1時間もかからずに鬼ヶ岳に着いた。

変わった形の岩の上に腰を下ろして休憩する。富士山は雲の中だ。ひどく霞んでいて見晴らしはよくないが、麓の湖はかろうじて見えている。特別することもないので、ただぼんやりと景色を眺める。

「生きる意味」って、なんだろう…。ふと、そんな疑問が心に浮かんだ。

風がやさしく吹き抜けた。

帰るか。

立ち上がりザックを背負うと、忘れ物がないかよく確認してから、再び歩き始めた。