白い尾瀬

水芭蕉の花咲く初夏、生命力あふれる夏、黄金色に輝く秋と、季節を変えて何度も訪れている尾瀬。

あっ、あれ? そういえば冬は行ったことないよね…。

尾瀬ヶ原が雪に埋もれ、真っ白な燧ヶ岳が青空に映える、そんな光景を求めて、ゴールデンウィークは尾瀬へと向かった。

10日前のゲートオープン時の写真と比べると、尾瀬ヶ原の残雪はずいぶん減っていた。

山の鼻から望む燧ヶ岳は、白銀の原の向こうにではなく、雪の残る湿原が前景になっていた。まあでも、これはこれで素敵な眺めだ。

湿原をよく見ると、水面下には水芭蕉の花がスタンバイしている。

冬が終わり春が始まる、まさに今はその狭間の季節だ。

尾瀬ヶ原の中心に向かうにつれて、残雪は厚くなっていった。このあたりまで来ると、まだまだ季節は冬である。

それでも、ところどころは木道も出ており、分厚く横たわっているように見えた残雪にも、亀裂が入っているのに気づく。

ゆっくりとゆっくりと春に向かっている。

見晴らしはまだ雪に埋もれ、最盛期の賑わいからは程遠い静けさだった。

テントを設営したら、あとはすることもない。のんびりと周辺を散策する。

重いザックを背負ってるあいだは、踏み抜くのがイヤさに慎重にトレースの上を移動してきた。いまは身軽になったので、好き勝手に歩く。

昨夜は降雪があったので、溶けつつあった残雪は真っ白な新雪で覆われている。昨日までの踏み跡もすっかり消えている。

白い尾瀬ヶ原に自分の足跡を付けていく。

ひとしきり散策を楽しんだら、あとは夕暮れを待つばかりだ。

太陽がゆっくりと傾いていき、空気が次第にオレンジ色に色付いていく。この時間が好きだ。

一日を楽しんだ充実感と、一日が終わってしまう切なさと寂しさ。その両方が心を占めて胸がキュンとなる。生きてることに感謝する瞬間だ。

至仏山の向こうに日が沈み、西の空が茜色に染まった。

結局、尾瀬には二泊した。二日目も三日目も快晴で、これ以上は望めない絶好のコンディションだった。

また来るね、そう言い残して、白い尾瀬を後にした。

2022年5月

尾瀬

Posted by azuwasa