尾瀬の雨

昨夜の雨で濡れた蛇紋岩に足を滑らす。荷物は重く、昨日の疲れがまったく取れてないため足取りは重い。それに寝不足だ。

昨夜はよく眠れなかった。激しい雨がひと晩ずっと続き、テントを激しく打ち付けた。いまにもテントが潰れるんじゃないかと思うほどの激しい降りだった。シングルウォールのテントは頼りなく、雨の刺激が体に直接伝わってくる。

軽量化のためなのか経費削減なのか、出入り口にも通風口にも虫除けネットのないテントだ。締め切っていると酸欠になるので通風口は開け放していたが、虫が入り放題だった。体のあちこちが痒い。

土砂降り雨の轟音と絶え間ない虫の攻撃にさらされ、まどろむ程度で熟睡できず夜を明かしたのであった。

尾瀬のテント場はあまり好きではない。木々に囲まれて暗く、いつでもジメジメ湿っている。尾瀬ヶ原の明るい爽やかさとは対照的な環境だ。

設えられた木道の上を歩いているだけだと感じにくいが、尾瀬ヶ原だってほんとはそんなに快適なところではない。いや、実際はかなり不快な場所である。

沼、湿地帯、足を取られる泥濘、ありとあらゆる種類の毒虫、本来の尾瀬は通過困難な悪場であった。

初日は、尾根から湿原へと尾瀬を歩き回った。もちろん通過困難な悪場としての尾瀬ではなく、快適な木道の上をである。そして夜は、ここだけはかつて人が近づき難かったころの名残を残しているジメジメしたテント場にテントを張った。翌日の至仏山登山解禁日に合わせて登るために。

そして7月1日である。今シーズンの至仏山一番乗りを目指して早朝から歩き始めたが、体は思うに任せず、次々と追い抜かされていく。もはや一番とか二番とかどうでもよくなり、一刻も早くこの登りが終わってくれよと願い続け、這々の体で山頂に到着した。数年前に登ったときより、1時間も余計にかかってしまった。

早朝は晴れ間がのぞいていたにもかかわらず、山頂はすっかりガスに覆われていた。それでも多くの登山者で賑わっていた。みんなこの日を目指して登ってきたのだろう。

山頂でしばらく休憩し、鳩待峠へ下山する。ちょうど鳩待峠からの登山者が山頂に到着する時間帯で、次々と登ってくる登山者と挨拶し、すれ違いながら下ることになった。

途中、小至仏山あたりで晴れ間がもどってきた。しかし至仏山の山頂はガスに隠れたままだ。笠ヶ岳も山頂付近には雲がかかっている。粘れば晴れそうな気もしたが、やめておくことにした。なにしろ疲れ過ぎている。四年前に来たときは、大雨の中の登山だったため笠ヶ岳には行かなかった。あとちょっとなのに、なかなかたどり着けない山になってしまった。

山では節約第一を心がけているが、鳩待峠からはバスに乗ることにした。なにしろ疲れすぎている。そして戸倉の駐車場へは行かず、少し手前のスノーパーク尾瀬戸倉で降ろしてもらった。降りたのは自分一人であった。

行きは、駐車場代とバス代をケチって富士見下に車を停めたのであった。スノーパーク尾瀬戸倉から富士見下まで3キロほどの登りだ。もう歩きはたくさんだよと心の中でつぶやきつつ、最後の登りをしかたなく登った。