鍋っこ遠足&山頂デザート @燧ヶ岳

この夏、S子先輩とM子先生の三人で訪れた会津駒ヶ岳では、いろいろと想定外の事態に襲われました。

まずは、なんといっても想定外だったのは、お花の名前を教えていただくために来ていただいたお二人が、図鑑として全く機能しなかったことがあげられます。

他には、アクシデントにより中門岳までたどり着けず、会津駒までで下山となってしまったことも想定外でした。

いつかまた、中門岳を目指そう。
その日は、そう固く誓って会津駒を後にしましたが、その機会は想定外に早く訪れました。
来年のお花の季節にまた来よう。そう、ぼんやり考えていたところ、あれよあれよという間に、秋には早々に再挑戦することとなっていました。
どうやら、S子先輩もM子先生もせっかちなようです。それとも、お花の咲いてない季節をわざと狙ってきたのかもしれません。
まあいいでしょう。草紅葉の高層湿原も、きっと素敵な場所に違いありません。

そんなこんなで予定が決まりつつあったある日、M子先生から新たな提案がありました。

「わたしやっぱり尾瀬に行きたい〜。沼山峠から尾瀬に入りたい〜」

えっ? まあいいですけど…。
尾瀬も会津駒もたいして変わりませんし。檜枝岐と御池ならすぐ近くですし。
それにしても、なぜわざわざ沼山峠から?

「テレビで釈由美子さんが沼山峠から尾瀬に入ってたの〜。わたしも釈さんみたいに、沼山峠から尾瀬に行ってみたい〜」

「わたしも釈さんみたいに〜。わたしも釈さんみたいに〜」を連発するM子先生。
どうやら釈由美子と同じルートで尾瀬入りすれば、自分も釈由美子になれると勘違いしているようです。
まあいいですけど…。沼山峠は行ったことないですし。

それにしても、スポーツ中継以外は年間3時間もテレビを見ないわたくしには新鮮でした。ネット時代の21世紀に、まだこれほどテレビの影響力が残っているとは…。

テレビの影響力、恐るべし。

というわけで、釈由美子のせいで沼山峠までやってきました。
ここから燧ヶ岳へ登り、御池へ下山します。
それはテレビで釈由美子が歩いたルートと違うんでないかい?と思いましたが、細かいことは気にしないようにしておきます。

しばらく木道を歩くと湿原に出ました。草紅葉の湿原に。
昨年初めて訪れた秋の尾瀬に、今年もまた来ることができました。
しかし今年の草紅葉の湿原は、昨年とは大きく異なって見えます。

陽の光を浴びて黄金色に輝く草紅葉の湿原。なんて綺麗なんだろう。昨年の自分は、そんな気持ちでこの風景を眺めていました。
今年の自分にとっても、綺麗なのには変わりありません。でも今年は、それだけではありませんでした。

草紅葉のグラデーションの中に佇む、枯れたキンコウカや枯れたイワイチョウや枯れたヤマハハコの姿が目にとまります。
一面の枯れ草にしか見えていなかったのが、そこに咲いていた花々を思い浮かべることができました。
そこにあるのは、もう「草」ではなくなっていました。

さらには、まだ咲いているエゾリンドウを見つけることもできました。
昨年までの自分なら草紅葉の美しさに目を奪われて、その中でわずかに咲き残っている花なんて見えなかったでしょう。

今年の自分は昨年とは違う。多少の成長を実感できた瞬間でした。

尾瀬沼で湿原を後にして、燧ヶ岳への登りに取りかかります。

お昼ご飯はどうしましょうか?
「鍋でも持っていってうどんでも作ろうか?」
今回の山行計画の打ち合わせをしてたとき、M子先生が「鍋」という単語に食いついてきました。

「鍋っこ遠足しましょう!!」
はっ?なんですかそれは?
「食べっこ動物とは違うの?」とS子先輩。どうやらS子先輩もご存じないようです。

鍋っこ遠足というのは、グループごとに鍋やら芋やらを担いで歩き、目的地に着いたら芋煮を作って食べる遠足のことだそうです。M子先生の出身地の秋田では、小中学校の秋の遠足といえば、鍋っこ遠足に決まってるといいます。
M子先生は、全国的に秋の遠足といえば鍋っこ遠足なのだと思ってらっしゃいますが、たぶんそれ、秋田だけですよ…。

「わたしが芋の子汁を作ります〜!!芋も肉も野菜も持っていきます〜!!鍋も持っていきます〜!!」とテンションの上がるM子先生。

東北人は芋煮というと、なぜこれほどテンションが上がるのでしょうか。なぞです。小中学校の9年間、毎年芋煮を食べさせられ続けたら、すっかり芋煮嫌いになってもおかしくないというのに。

芋煮というのは山形での言いかたで、秋田では芋の子汁と呼ぶそうです。
芋煮がどちらかというと大人のイベントなのに対し、鍋っこ遠足は小中学生の行事のようです。

とはいえ、芋煮も芋の子汁も同じですよね?とうっかり言ってしまったら、芋の子汁は鶏肉だけど芋煮に入れる肉はなんちゃらかんちゃら…。味付けはミソ派としょう油派があって…と止まらないM子先生。

東北人に芋煮の話題を振るときは、腰を据えて話を聞く覚悟を決めてからにしなくてはいけないということを学びました。

芋の子汁でテンションマックスのM子先生を、これで福山雅治結婚の衝撃も吹き飛びますね!!と元気付けたところ、とたんにシュンとしてしまいました。

「そのことは…思い出させないで…」

M子先生といえば、前回の会津駒からの帰りの車内で自分のiPhoneをカーステレオに繋ぎ、福山雅治の夏と海がなんちゃらって曲をエンドレスに再生し続けたという、はた迷惑な逸話を持つほどの福山ファンです。

福山雅治の結婚発表後は、仕事も家事も手につかない女性が続出と話題になっていましたが、目の前にいらっしゃるM子先生が、まさにその中のひとりなのでありました。

「ましゃにも、わたしの芋の子汁を食べさせてあげたかった…」

はっ? 文脈からいって、ましゃというのは福山雅治のことでしょうか??
というか、日常と非日常が混濁してませんか…?
ゲームやアニメにハマって現実との区別ができなくなって…なんてことはよく言われますが、いやいやテレビもかなりヤバいでしょう。

テレビの影響力、恐るべし。

そういえばM子先生は、以前に聖岳の話題になったとき、キツい山は敬遠してたにもかかわらず「聖子ちゃんの聖の字の山なら登りたい〜」と言ってました。
M子先生は、松田聖子ファンでもあるのです。
高校生の頃は聖子ちゃんカットにしてたに違いありません。

テレビの影響力、恐るべし。

ちなみに現在のM子先生の髪型は、釈由美子カットであります。

ドロドロでダラダラ長い長英新道を登り、ミノブチ岳で森林限界を超えました。

岩っぽい登山道をひと登りして俎嵓に到着すると、狭い山頂は人でいっぱい。
もうひとがんばりして柴安嵓まて行き、お昼ご飯にします。

到着したら早速、芋の子汁にとりかかります。本場秋田のM子先生が食材担いで作る本物の芋の子汁です。

福山雅治の代わりに、わたくしがおいしくいただきました。

食後のデザートはS子先輩の係りです。

今回のデザートは、焼きマシュマロのアイスクリームがけ、季節のフルーツ添え!!

今回の山行にあたり、わたくしが山頂デザートにリクエストしたアイスクリームはあえなく却下され、M子先生リクエストの焼きマシュマロに決定していたのですが、アイスクリームも担いで来ちゃったよ…。
リクエストを聞いてくれなかったと後から言われないために、クーラーボックスに保冷剤を詰めてアイスクリームを担いできたS子先輩…。

さすがです…。
さすが屈強で強靭なS子先輩…。

次回のデザートはカキ氷でお願いします。宇治抹茶金時で。

食べ終わったら、すっかり体が冷えてました。アイスクリームのせいかと思いましたが、どうやらそうではなさそうです。
周囲はガスに包まれて、冷たい風がぴゅーぴゅー吹いています。

気づけば他の登山者はみんな下山していました。
われわれも、そそくさと山頂を後にします。

ゴツゴツした岩とツルツル滑る木道に手こずりながら、御池へと下りました。

鍋っこ遠足は必ず秋にやるものだという秋田古来の伝統にのっとり、来年の秋に再び決行することを約束して、今回の山行は無事終了となりました。

楽しい時間を、どうもありがとうございました。

屈強で強靭…ではなく、ほんとは華奢で可憐で誠実なS子先輩のブログはこちら

山頂デザートな日々