晴天と風雪の北岳
思ったよりも雪が深い。冬の始まりにしては、けっこうな積雪量だ。
左俣を遡って北岳山荘を目指す。沢沿いの登山道は雪に埋もれ、踏跡はあちこちに適当に付いている。行けそうなルートを自分で見定めて登るしかない。新雪はやわらかく、下手なところで踏み抜くと沢に落ちてしまう。この季節に足を濡らしたくないので慎重に進む。
天気はとても良い。沢の源頭には青空が広がっている。こんな天気のいい日に、稜線ではなく沢筋で雪と格闘してるとは…。
雪がやわらかく、アイゼンが効かない。急な斜面はずるずると滑り落ちてしまう。体力も奪われて、進みは遅くなる一方だ。背負った荷物がずしりと重い。間ノ岳まで行くつもりだったが、とても無理だろう。
予定よりも遅れに遅れて、北岳山荘に到着したのは夕方になってしまった。
テントを設営し、周辺を散策する。
北岳山荘は、北岳と間ノ岳に挟まれた、とても気分の上がる場所だ。
どちらの山も美しい。
日が傾くにつれて、山の色が移ろいでいく。山の素敵な時間だ。
いつまでも眺めていたかったが、じっとしてると耐えられない寒さになってきた。
まもなく夜がやって来る。
翌朝は暴風雪だった。
吹き荒ぶ風と雪の中で、テントを撤収した。細かいことは気にしてられない、無造作に丸めてザックに詰め込む。
こんな天気だが、山頂に向かう。
せっかくだから北岳くらいは登っておきたいというのもあるが、左俣を下るよりも山頂経由で下山したほうが安全だろうという判断もある。
稜線なら深い雪にハマることもない。注意するのは、ホワイトアウトでコースを外さないことと、気を抜いて風に吹き飛ばされないこと。山頂までの登りさえがんばれば、あとは下るだけである。
風は狂ったように吹き、細かい氷の粒が顔にぴしぴしと当たる。
山頂標識の写真を撮って、すぐに下山を開始した。
御池まで下ると雪は雨に変わり、風も落ち着いていた。
2021年10月