秋の日光 – 社山 / 黒檜岳
秋の日光をナメてた。早朝にもかかわらず、駐車場は車でいっぱいだ。湖畔の遊歩道を人がぞろぞろ歩いている。
観光客だけでなく、登山者も多い。だいたいいつでも視界に登山者が入っている。晴天で眺めも良いのだから、登りたくなるのも当然ではある。
あまり広くはない社山の山頂も、休憩を取る人たちで埋まっていた。
眺望もない山頂だが、少し先へ進むと見晴らしの良い展望地へ出る。山頂からわずかの距離にもかかわらず、ここまで来る人はほとんどいない。
だいたいの登山者は半月山方面へ向かうのだろう。だが今回はそちらへは行かず、ここから先の破線ルートを行く。
まずは、ものすごく不明瞭なトレイルを辿って樹林帯を下り、登り返すと笹原の稜線に出た。
笹原は広く、ゆるやかな起伏をくり返しながらずっと続いている。尾根通しで進めばいいのだが、うっかり獣道を辿ると谷側へ引きずり込まれてしまう。
笹の海を行ったり来たりしていると単独の男性が現れた。その後すぐに、単独の女性も。誰にも会わないだろうと思っていたのに二人も歩いてくるとは、さすがハイシーズンの日光だ。
迷いつつも笹原を抜けて樹林帯に入った。広くて平らで、尾根ではなく平地のようだ。どちらを見ても同じ景色で、方向感覚が狂ってしまう。目印が無ければ、どこをどう歩いていいのかさっぱりわからない。
ルートから逸れて黒檜岳の山頂を踏みに行った。山頂と言ってもだだっ広い平坦地の一角で、山頂標識が無ければここが山頂だとはわからない。
まったく景色も見えない樹林帯の中だが、先程の二人もここまで来ていた。世間には物好きがいるものだ。
急坂を一気に下って中禅寺湖に出ると、そこは別世界だった。
綺麗に整備された遊歩道、観光スポットの説明板、そぞろ歩く楽しげな人々、明るく健全で、すぐそこの山中とはかけ離れている。
にぎやかに会話しながら歩く若者のグループは、あの稜線で出会った二人、無口で山と自分にだけ向き合っている、まるで求道者の如き人たちとは人種が違うように見えた。
湖畔を半周して戻るのもダルいので、バス停まで歩いてバスに乗った。乗ってすぐに失敗したと気づいた。渋滞で動かないのだ。これなら歩いて帰った方が早かったかもしれない。
秋の日光をナメてはいかん。
2021年10月