山頂デザート @会津駒ヶ岳

花の名前を覚えるのは難しい。
いやそれ以前に、花を識別するのがすでに難しい。

高山を歩いていると、白や黄色やピンクのちっちゃな花がいっばい咲いていて、ちっちゃいし、よく似たのがいろいろあるしで、覚える前に区別ができないのです。

写真に撮って帰宅後に調べても、似たような花がたくさんあってさっぱりわかりません。花に詳しい人に見てもらっても、写真だとよくわからないと言われることが多いです。山に図鑑を持っていってその場で調べても、図鑑の写真はやはりいまいちよくわからないのです。

これはなかなかの難題です。とにかく区別できなければ覚えることすらできません。うーん、困った…。

あっ、そうだ!名案を思いついた!さすがおれ!抜群の問題解決能力です。

もしもし、S子先輩ですか? こんどの日曜に会津駒ヶ岳に行くんですけど、お暇ならいっしょに行きません?

「行く行く!ヒマヒマ!」

よしっ!植物図鑑ゲット!!

当日は、S子先輩のご友人のK女史も来てくださいました。よしっ!これで図鑑がさらに分厚くなりました。

急登を登り湿原に出ると、見たことのない黄色い花が咲き乱れています。さっそく植物図鑑さんに花の名前を尋ねました。

「うーん、なんだろ…。知らない」

えっ、マジですか…。なにしに来たんですかS子先輩…。

「ほら、あれ、あれはワタスゲ!!」

ワタスゲくらい、ぼくでもわかりますよ…。

ここでちょっとアクシデントが…。

久しぶりに登山のK女史は、急登をガツガツ登ったせいで足が攣ってしまいました。まあ、足が攣っただけだし、しばらく休んでれば治るだろって軽く考えてましたが、めちゃめちゃ痛がってるし、いつまで経っても回復しないので、だんだん心配になってきます。痛がってる姿をただ見守り、励ましの言葉をかけるくらいしかできません。

ま、まあ、足が攣って死んだ人はいないから…。大丈夫…。

「ゔ~~、足の痙攣がどんどん上がってきて心臓まで達しそう~~!!」

えっ、マジですか。いや、それはないと思うんですが…。

「ゔ~~!!痛い〜〜!!この痛みは陣痛以上だ〜〜!!」

すいません…。その例えは、ちょっとわかりません…。

美しい高層湿原を前にして、足を痙攣させてるK女史に、それを見守るS子先輩とわたくし。そこへ、年季の入った山ガールのみなさまが通りかかりました。

「あら~!足つってるの!?ねえねえ、みんな見て見て!!この人、足つってるわよ~!!」

ガヤガヤと現れた熟年山ガールのみなさまは、ザックから颯爽と漢方薬を取り出すと、K女史に飲ませてくださいました。

その後も通りかかる人、通りかかる人が、塩飴やら梅干しやらくださり、本来ゆで卵にかけるはずだった粗塩を水に溶かして飲ませてくれたりもしました。足のマッサージをしてくださった方もいらっしゃいました。

「お互い様だから」「みんな同じ経験があるから」

お礼を言うと、みなさん一様にそう応えて去っていきます。

助けてくれたみなさまは、おそらく足が攣って動けなくなるなんてことはないと思います。それでも、もしもの時のために備え、困ってる人がいたら手を貸せるように準備してきているのです。自分が大丈夫でも、メンバーになにかあるかもしれません。今回のように、通りすがりの誰かになにかあるかもしれないのです。自分は大丈夫だからそれでよしという考えは、熟ガールのみなさまにはありません。

登山は自己責任という言葉がまかり通っていますが、登山は相互扶助なんだと痛いほどよくわかりました。調子こいてソロで登ってるだけでは得られない大切なことを学びました。

熟ガールのみなさまのおかげでK女史もすっかり回復したので、会津駒ヶ岳を目指します。

よく見かけるけど名前のわからない白い花が咲いていたので、図鑑さんに名前を尋ねてみました。

「ああ、これ。よく見るね」

名前は…?

「よく見るやつ」

………………。

「ほら!これ!これ知ってる?これはハクサンコザクラ!!」

知ってますよ…。平標山で覚えましたから…。

相変わらずS子先輩は、自分の知ってる花があると、聞いてもいないのに教えてくださります。ちなみにK女史は、図鑑としては全く役立たずで、ほとんどわたくしと同レベルであることが判明しました…。

「ちょっと待って!ちょっと待って!これこれ!これはミヤマリンドウかタテヤマリンドウ!」

わたくしが花に気づかず通り過ぎると、呼び止めて引き戻して教えてくださります。ずいぶん親切な図鑑です。知ってる花の時だけですが…。

で、ミヤマリンドウとタテヤマリンドウのどっちなんですか?

「それはわからない」

…………………。

じゃあ、こっちの白い花はなんですか?

「それはミツガシワ!!」

おぉ!今日初めて質問の答えが返ってきました!先輩ありがとうございます!

が、このミツガシワってのがなかなか覚えられなくて、咲いてるたびに、えーっとなんだったっけ…。ミツ…ミツ…名前が出てきません…。

「もう!覚える気がないでしょ!!」

いや、気はあるのですが、記憶力が…。

ひとしきり湿原に咲く花々を堪能したので、お昼ごはんにします。

お昼ごはんは、K女史が担いできたあれこれあれこれで、食べきれないほどたくさんありました。

こんなに背負ってくるから足が…。いや、ありがとうございました。

S子先輩のデザートもいただきました。なんかプリンみたいなやつに崩れたゼリーとミカンがのってるやつでした。ありがとうございました。

すっかり足も回復したK女史は、「あぁ、健康って素晴らしいな~」としみじみ語りつつ、下りも快調に飛ばしていきます。

わたくしは、本日唯一の収穫の、えーっとミツ…ミツ…ミツなんだったっけ…と繰り返し思い出して記憶に定着させつつ下ります。

「まだ覚えられないの!あり得ない!わざとでしょ!」とS子先輩は呆れていらっしゃいます…。

あの痛がりぐあいはなんだったのかというほどすっかり回復したK女史は、あまりにも快調過ぎて、さきほど助けてくださった熟ガールのみなさまもぶち抜いて下山してしまいました…。

とりあえず、よかったよかった。

下山後の温泉で、壁に貼ってあったお花のポスターを眺めていたS子先輩が改まって話し始めました。

「えー、重大なお知らせがあります。さきほどミツガシワと言っていた花は、実はイワウチワでした…」

えっ、マジですか…。あんなに何度も口にして覚えたのに…。ミツガシワ…。ようやく覚えたのに…。

イワウチワイワウチワイワウチワ…、覚えなおしました…。

が、帰宅後に図鑑でイワウチワを調べてみたところ、明らかに違う花なんですけど…。

先輩………。

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山頂デザートな日々