厳しくも優しい、山という存在 – 荒海山
車を停めて、林道を歩く。
林道は荒れているといったレベルではなく、破壊しつくされていた。自然の力は、人間の営みなど粉々に砕くほどの苛烈さだ。
林道終点から斜面を上り、尾根に乗ると、穏やかなブナ林が続いていた。
不思議だな…と思う。
猛々しさも穏やかさも同じく自然の一面である。心を癒す風景が、人の暮らしを一瞬にして破壊する狂暴さも持ち合わせている。しかし、だからこそ人は自然に惹かれるのかもしれない。そこには、美しいものを愛でるだけではなく、間違いなく畏怖の念も含まれているのだから。
自然の美しさと厳しさを共に味わい尽くす登山というのは、優雅な趣味である。
樹林帯を抜けて、視界が開けた。
高曇りだが展望は悪くない。
山頂からは周囲の山がよく見渡せた。日光や尾瀬、高原山、男鹿山塊に那須、東北の山々まで。
登ったことのある山を眺めるのは、楽しいものである。
荒海山は双耳峰なので、もうひとつの山頂にも登っておく。
わずかに下ってわずかに登るだけなのだが、整備されておらず藪になっていた。トレイルも見辛く、うっかりすると外れてしまう。
北の空には、暑い雲の切れ間に青空が広がっていた。
長過ぎず短過ぎず、ちょうどいい山歩きだったな。
さて、帰るか。再び、あの崩壊した林道を通って。
2021年9月