年越しナイトハイク 2015-2016 sect.1

トレランにはあまり興味はないが、ウルトラマラソンの世界には強く魅かれるものがある。

ウルトラマラソンというのは、ざっくり言ってしまえば、通常の42.195kmより長い距離を走るマラソンレースのことだ。
距離は、50km程度の短めから、何日もかけて走り切る超長距離までさまざまだが、国内では100kmが一般的のようである。海外では100マイル(約160km)レースが多く、ランナーの中には100マイル以下はウルトラではないと言う人もいる。

自分の限界を超えて走りつづけるウルトラマラソン、そこには限界を超えた領域でしか見えない世界が広がっているという。

そんなウルトラの世界に憧れるものの、さすがにちょっといきなり自分にできることでもない。
そこで、自分の限界を超えて歩きつづけてみようと思った。走るのは厳しいが歩くならできる。

いままで一日で最も長く歩いたのは15時間くらいか。ならば、それを超えて24時間歩き通してみよう。夜明けから夜明けまで歩いてみよう。ウルトラのランナーは極限状態で迎える夜明けの美しさを語る。その片鱗を体験してみよう。
習慣に囚われず、常識に惑わされず、やろうと思ったことはやってみよう。やる前からできないと思えば、永遠になにもできない。

選んだコースは、高尾山から石老山、石砂山を超え、丹沢主脈と表尾根を縦走して大山まで、それで24時間に足りなければ秦野まで歩いて海まで。出発は大晦日と決めた。

山から海へ

今日から明日へ

高尾から丹沢へ

2015年から2016年へ

心の限界を超えて

始発電車に乗り、まだ暗い高尾山口駅に着いた。

2015年12月31日、午前5時30分。長い旅の始まり。

暗闇に包まれていた登山道も、登るにつれて仄かに明るくなってきた。東の空が赤く燃えている。

薬王院で登山の無事を祈願して山頂に到着すると、ちょうど日の出の時刻であった。

2015年最後の日の出。

山頂で夜明けを迎え、再び夜明けを迎える。

朝日を浴びたら出発だ。

歩きやすい登山道が続くが、ペースを上げ過ぎないよう注意する。
長丁場だから、前半で体力を消耗しないように。

一丁平からは正面に丹沢が見えた。あの山並みの向こう側まで歩くのか…。

遠いなって気持ちと、意外と近いし行けそうじゃね?という気持ちと、相反する二つの思いが湧き上がってくる。

城山から相模湖に下り、湖畔を歩いて石老山へ。
山頂から篠原集落へ下山して、次は石砂山だ。

ひと山ひと山、超えていく。

石砂山…真夏に訪れて山ビルまみれになった悪夢がよみがえる…。が、まあ、冬は大丈夫だろう…。

それぞれの山に、それぞれの思い出が宿っている。

高尾山や石老山では多少の登山者がいたが、石砂山ではだれとも会わない。ひとり黙々と歩く。

静かに淡々と歩いていると、しだいに肉体の境界線は曖昧になり、心が宇宙に溶け出していく。自分が誰なのか、どこにいるのか、すでに明瞭ではない。様々な想いが浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。疲れもなく迷いもなく、ただただ自然と足が進む。

山頂に登ると、目の前には丹沢山塊が聳えていた。

それは山塊という言葉にふさわしい山の塊だった。
蛭ヶ岳までの標高差は、ここまでの上りの2.5倍はある。

来たな。

石砂山から下山すると道志みちに出る。沿道のコンビニで最初の大休止。
ここまで8時間、なかなかいいペースだ。

この年越しナイトハイクは、実は一年前に考えてたのだが、その時は悪天候のために中止した。
もし一年前に歩いていたら、これほど余裕はなかっただろう。体力的にももちろんだが、精神的にもだ。
全く苦しくなく悲壮感もなく、ただ楽しんでる自分がいるのが、成長の証しだなと思った。

朝からおにぎり二個しか食べてなかったので、ここでカツカレーとカップラーメンを補給した。そしてペットボトルの水を一本買って再出発。

いよいよ丹沢だ。