高尾 de 新年会

「そうだ!あさかわに行けるじゃない!」と餃子をパクつきながらK女史が言いました。

あさかわ? それは飲み屋じゃないですか。次回山行の行き先を相談してるのに、あさかわですか…?

「いいね!あさかわだったらわたしも行ける!」と餃子をパクつきながらK美先輩が答えます。

K美先輩は諸事情により山自粛期間中なのですが、飲み会だけなら参加できるとのこと。
では、しかたないですね。夕方のお店が空いた時間帯に集合できるような予定を考えてみますか…。

「K美ちゃんは、わざわざ二時間もかけてあさかわまで来るのに、夕方からじゃかわいそう!」と餃子をパクつきながらS子先輩が言います。

どうやら開店時間の二時から飲み続ける気満々のようです…。

都内某所にある、メニューは焼き餃子一択という潔さの餃子専門店にて、登る山も決まらないのに、来週はあさかわで新年会(しかも開店早々から)という予定だけは決まってしまいました。

ていうか、いまも飲んでるんですが、これ新年会じゃないんですか? あけましておめでとうとか、今年もよろしくとかさっき言いましたよね? 来週も新年会ですか?

同じメンバーで二週連続の新年会なんてあまり聞きませんが、口答えするのは控えておきます。

ところが…。

夜だけは参加できそうだったK美先輩は、諸事情により一日中自粛となってしまいました。K女史も諸事情により朝から山へは出かけられなくなってしまいました。さらに、直前でS子先輩も止むに止まれぬ事情で不参加となってしまいました。

結局、わたくしひとりでいつものようにソロハイクです。なんだかひとりだけ暇人のようですが、暇人なので否定はしません…。

「あさかわ行くなら付き合ってあげてもいいわよ」と午後は時間のあるK女史が言います。

ひとりでかわいそうだからと優しさを強調してましたが、本音はあさかわに行きたくてしかたないのがミエミエです。

まぁ、ひとりでかわいそうなので、付き合っていただきますが…。

午後から高尾山に登るというK女史に合わせて、だいたいそれくらいの時間に高尾山に着く感じで、ひとり陣馬山からとぼとぼ歩いて行くことにしました。

というわけで、前置きが長くなりましたが出発です。

高尾駅北口発の陣馬高原下行きバスは登山客でいっぱいで、立ってる人もぎゅうぎゅう詰めでした。

こんなに登るんだ…。何年か前の真冬にこのバスに乗った時は、地元の人がちらほらで登山客は自分ひとりだけだったというのに…。

これが山ブームってやつでしょうか。

数日前に降り積もった雪は、まだしっかり残っていて、真っ白な登山道をきゅっきゅっと踏みしめて登っていきます。

一時間ちょっとで山頂到着。

青空に白馬が映えています。天気はいいけど風は冷たい。じっとしてるとどんどん体が冷えてきます。

さて、ここから高尾山まで。

かつて何度も歩いた道です。久しぶりに歩くけど、懐かしい…というよりは、ちょっと飽きたよなって気分の方が強かったりします。

それでも残雪の縦走路はキラキラ輝いていて、やっぱどこでもいいから山を歩いてるだけで気分が良くなるなあなんて思うのでした。

堂所山に立ち寄り、景信山でお昼ご飯にします。

あんまり急いで早く着き過ぎても、高尾山の山頂で寒さに震えて待ってるだけなので、のんびりゆっくり進んでいきます。

慌てない山旅ってのはいいものですね。

景信山を過ぎると残雪量は少なくなり、ドロドロ状態になってるとこもありました。

のんびりしすぎたので城山は巻き、大晦日と同様に一丁平から丹沢を眺め、高尾山への最後の登りを登っていきます。

高尾山に到着したら、すっきり三角形の大室山の背後に富士山が聳えていました。

ここまでずっと見えなかった富士山ですが、ここにきてようやく姿を現してくれました。

10分ほど山頂にいると、六号路を登ってK女史がやってきました。
すかさず足元をチェックしますが、アイゼンは付けてません。

元々、今回の山行はK女史の雪山デビュー戦となる予定でした。持ってるけど一度も使ったことがない軽アイゼンを、初めて装着して歩くはずだったのです。

雪はそこまで多くないとはいえ、六号路にも多少は残雪があり、下ってくる人はアイゼンを付けてたそうです。しかし、東北地方の豪雪地帯で生まれ育ったK女史は、高尾山程度の積雪ではなんとも思わなかったようです。

まあでも、せっかくだから…ということで、下山は軽アイゼンを付けて下ることにしました。

なんだか最新式のワンタッチ風の軽アイゼンで、見てもさっぱり付け方がわかりませんでしたが、電車の中で説明書を読んできたというK女史は、さくっと装着しておりました。

で、歩き始めると…。

「歩きやすい〜。もっと早く付けとけばよかった〜」

なんて、おっしゃっております。

軽アイゼンで軽快に一号路を下って行くと、5分もしないうちに雪はなくなりました。雪かきされてて、コンクリートの路面が露出しています。

こうして、K女史の軽アイゼンデビューは5分で終了となりました。

下山して高尾山口駅前の新しくできた温泉に入り、湯から上がって待ってると、K女史がバタバタとひどく慌ただしく出てきました。そしてひとこと…。

「あとは飲むだけ!」

どんだけ気合が入ってるんでしょう…。

「のど乾いた〜!!」

そう言うと、K女史は意気揚々と、あさかわへ向かって行きました。