20年近くぶりのじゃじゃ麺 – 盛岡
じゃじゃ麺は20年近く前に食べたことがある。その時はじゃじゃ麺発祥の店『白龍』の本店で食べたのだが、その白龍の支店が盛岡駅の駅ビルに入っていたので、20年近くぶりに食べてみた。食べて驚いた。こんな味だったんだ。20年近く前に食べた時は、なんだかさえない味だなあとしか思わなかったが、今ならわかる。これは昔の味だ。おそらく創業時からほとんど、あるいはまったく変えてないはずだ。
味噌ダレは甘味もコクも極めて少ない。豆味噌を使っているので、余計にソリッド感が増している。味がしないと感じる人も少なくないだろう。テーブルにはおろしニンニクや酢、胡麻油といった調味料が用意されていて自分好みに調味するのだが、どれも風味を加えるものばかりで甘味や旨味を増すものではない。おろし生姜は最初からたっぷり添えられているのに、おろしニンニクがオプションなのも昔の味を思わせる。
13分かけて茹でられた麺はとてもやわらかい。やわらか麺に味のしない味噌ダレ、現代嗜好の真逆だ。これは昔の味だ。食べるシーラカンスだ。
美味しくしようと思えばいくらでもできる。砂糖と化学調味料を加えるのが手っ取り早い。もう少し丁寧にやるなら、挽肉をぐっと増やして、味噌を味醂でのばせばいい。さらにはニンニクや豆板醤や胡麻油を足すのもいいだろう。一般にウケる味が簡単にできる。それをしないのは矜持だ。「おいしくない」とクチコミに書かれても、頑なに昔の味を守り続けている。これは尊い、尊すぎる。

麺を食べ終えたら、ちいたんたんで〆る。食べ終えた皿に生卵を溶き、麺の茹で汁を注いでもらう。ここも出汁の効いたスープにしたいところなのに、ぐっと堪えてただの茹で汁だ。尊いではないか。
この味はわかってもらえないことも多いに違いない。20年近く前の自分もまったくわかってなかった。カウンターの隣で食べていた女の子は、少し食べて手が止まり、ニンニクやら胡麻油やらをたっぷり加えていた。だけどせっかくなら昔の味を味わって欲しい。味変は後半に、最小限に留めたい。

20年近く前は白龍の他にじゃじゃ麺を提供する店を見かけなかった。それが今では盛岡名物としてあちこちの店で食べることができる。
やはりというか残念なことにというか、美味しくし過ぎたじゃじゃ麺もけっこう存在するらしい。その方が広くウケるのは間違いないが、それによって昔の味が駆逐されるのは忍びない。まあ、白龍がある限り大丈夫ではあろう。
旅先で名物料理を食べるなら、街で一番の老舗へ、できる限り古い店へ行くべきなのも、こういうことがままあるからだ。あまり言いたくはないが、同じ名前なのにオリジナルとはまったく違う残念な料理が観光客向けに売られているのは、あちこちでとてもよく見かける。
ただ美味しくしただけの料理ならそのへんでいくらでも食べられるけど、昔の味は消え行くばかりなのだから。
2025年8月





