裏越後三山周回 Day1 – 荒沢岳
長いよ、長い。いつまで続くんだよ、この鎖場は。
それほど角度はないし足の置き場も豊富なので難しくはない。だが、とにかく長い。登っても登っても終わりが見えない。あそこまで登れば終わりだなと力を振り絞って見えてるところまで登っても、さらに上に鎖が続いている。
二泊三日分のテント泊装備が重い。体重プラス20kgを引っ張り上げるのだからたいへんだ。ところどころで休むことができるので助かる。ノンストップで登り続けたら腕が売り切れる。
裏越後三山に来た。越後駒ヶ岳、中ノ岳、八海山の越後三山に対して、八海山が荒沢岳に入れ替わったのを裏越後三山というらしい。距離はそれなりにあるものの、表の三山のようなエグい場所も無くのんびり歩けるだろう、そう思っていた。
それが最初の荒沢岳への登りですでにこれだ。登山道から見上げた荒沢岳は険しく高く、あそこまで登るのかと思うとうんざりする。しかも荒沢岳はゴールでもなんでもなく、いわば縦走のスタート地点だ。さらにはいま登っているこの鎖場は荒沢岳への登りですらなく、その手前の前嵓への登りである。
裏越後三山縦走は、最初は左回りで計画していた。それだと荷物の重い初日の行動時間が短くてすむ。だが最終日の行動時間が短い方が帰宅が楽なのと、疲れの溜まった最終日に鎖場を下るより、体力のある初日に登る方が安全だろうと判断して右回りに変更した。しかしこれ、下るのも危険かもしれないが登るのも体力的になかなかキツい。
前嵓まで登って大休止した。鎖場までは順調に来ていたが、少し予定より遅れてしまった。すでに体力を使い果たした感があるので、この後はさらに遅れそうだ。
がんばれば一泊二日で縦走できそうだけど、がんばりたくないので二泊三日で計画してよかった。夏は暑いから秋にしたが、日が短くなってるからあまり遅くまでは歩けない。
前嵓から荒沢岳もずっと登りで、鎖場もありヤセ尾根もあり、楽しいのは楽しいものの疲れる道のりだった。
ふう、なんだか達成感があるけど、まだまだ先は長い。今日明日明後日と三日間かけて歩く稜線が目の前に広がっている。
ぐるっと回った先の威風堂々とした山が越後駒ヶ岳だろう。明日はあそこまで行く。その手前の大きな山が中ノ岳だ。一日であそこまで行ければ避難小屋もあるし一泊二日で下山できるが、さすがに遠い。
明日のことを考えると今日は行けるとこまで行っておきたいが、最低でも陽の水までは行かねばならない。陽の水というのは、源蔵山と巻倉山という二つの山の間にある水場だ。どこでテントを張るか、どこなら張れそうなのかわからないが、水場がある場所は候補地のひとつになる。
陽の水はどのあたりかなと稜線を目で追う。荒沢岳からは灰吹山、灰ノ又山と超えて源蔵山の向こう側、兎岳から下ってきたら巻倉山の手前と探していくと、えっ、あんなに遠いの??
ここまでと同じくらいの距離がある。三つの山越えもある。謎の達成感でのんびりしてしまったが、急がないとまずい。
荒沢岳からの下りは急斜面だった。直登で道が付いているため、下りもまっすぐ降りることになる。しかも濡れていてぬかるんで滑る。やっかいだ。下りで時間を短縮しようなんて考えは甘かった。登りと同じくらい時間がかかる。
下ったら次は山越えの登り、そしてまたいやらしい下り。灰吹山から降りてきた池塘の前に幕営スペースがあった。もうここまでにしたいと思ったが、それではただでさえ距離の長い明日の行程が崩壊する。なんとしても最低ラインの陽の水までは行かねばならない。
陽の水に到着したのは陽が沈む少し前だった。ちょっとした草地があり、いくつかテントが張られている。途中でお話ししたお姉さまも今日は陽の水までと言っていたので、ここで一泊する人は多いようだ。公式的な幕営指定地ではないのかもしれないが、幕営地として扱われていて最低限の整備がなされていた。
テントを設営し、暗くなる前に沢を降りて水を補給したら、ようやく一日目の行程が終了した。
つづく