秋の終わりと冬の始まり – 霞沢岳

なんだかずいぶん寒いのでテントの外へ出てみると、風景が白く染まっていた。

えっ、雪…。

降るかもなとは思っていたけど、まさか標高2000mちょっとのテント場で、しかも昼間から積もるとは予想してなかった。

初日は上高地からのんびり歩き、昼前に徳本峠に到着し、あとはテントでのんびり本を読んで過ごしていたのだった。

雪はそれからもどんどん降ってきて、気温はどんどん下がっていく。シュラフもマットも厳冬期装備ではないので、なかなか寒い。厳しい一夜になりそうだ。まあ、我慢も装備のうちだからな。

大ガマン大会で夜を明かした翌朝、空気は澄んで雲ひとつなく、絶好の登山日和となった。

暗いうちから歩き始め、ジャンクションピークで朝日を浴びた。しかしここも東側が多少開けてるだけで、あとは背の高い木々に囲まれている。ここまでの登山道も展望はほとんどなかった。この後しばらく歩いても、いつまでたっても薄暗い樹林帯だ。

早くしてくれよ、早く森林限界を超えて、すごい景色を見せてくれよ、と焦りながら歩くも、道は平坦で高度はなかなか上がらない。

早く早くと歩いていくと急に空が広くなり、雪の着いたルンゼを登っていくと、K1に着いた。

すごいや。すごい。

進む先にはK2から霞沢岳への稜線。振り向くと明神岳に前穂高。空は青く、山は薄っすら雪化粧。秋が終わり冬の始まる最高のタイミングだ。

ここからは慌てる必要もない。すごい景色の中をゆっくり進んでいく。

K2を超えて山頂へ向かう。振り向けばいつでも雪を戴いた穂高岳。空気の粒子に朝の柔らかな光が乱反射して、空が優しく輝いている。

霞沢岳の山頂からは、周囲の山々がぐるっと見渡せた。

正面は乗鞍岳に御嶽山、右手には笠ヶ岳から双六岳、鷲羽岳への稜線。左後方は常念岳から大天井岳。足元には三角形の焼岳。何年か前、あちらからこちらを眺めて、大きな山だなと思っていたそのあちら側に、いまいるのだ。

こんな瞬間があるから、山はやめられない。

まるで自分が風景の一部になったような、自分がとてもちっぽけであると同時に、とても大きな存在になったような、不思議な一体感。

静かだ。

しばらくは、だれも登ってこないだろう。この素晴らしい時間を、めいっぱい満喫しよう。