大無間地獄 – 大無間山

思わず無言になってしまう…そんな急登を三時間登り続け、ようやく最初のピーク、P4に到着した。

ここからP3、P2、P1、さらに小無間、唐松谷ノ頭、中無間と全部で7つのピークを越えて、ようやく大無間山の山頂に至る。

この先も急登の連続だ。

P3から激しく下り、P2へと激しく登る。まだまだ先は長いのに、なかなかシビれる登り返しだ。

P1の先には崩壊地が待っている。両側が大きく崩れ落ちたヤセ尾根は、そっと足を置いただけでサラサラと音を立てて崩れていく。

その先はガレザレの急斜面。ゆっくり慎重に歩いてもガレた石が落ちていく。

崩壊地を乗り越えても、そこから小無間まではさらに厳しい急傾斜の登りが続く。

まさに無間地獄。なんとも名は体を表す山である。

ようやく小無間山までやってきたが、目指す大無間はまだまだ先だ。

ここまででかなり登っているが、まだこの先、軽いハイキング程度の距離は残っている。いや、ハイキングよりずっと厳しい登りが待っている。

人の手のあまり入ってなさそうな原始の森を抜けていく。

この雑然とした鬱蒼感、南アルプスの美しい森、登山道もところどころ不明瞭だ。

なんて楽しい山なんだろう。

距離は長く、道は険しく、危険な崩壊地の通過もある。それでいて展望はほとんどない。

でも、なんとも楽しい山である。

だれにでも勧められる山ではない。田代からピストンしても往復18キロ、累積標高差2000m以上。水場もなければエスケープルートもない。出会う登山者もほとんどいない。登るには、体力に加えて、必ずやり切る心の強さが必要だ。

でも、なんとも楽しい山である。

大無間への最後の登りも、これでもかと急登が続く。キツいけどキツくない。もっともっと登りたいって気持ちになる。

なんとも楽しい山である。

そうして到着した大無間山の山頂は、特になんの特徴もない広場だった。展望も全くない。小無間も中無間も同様で、ただ樹林に囲まれた山頂である。

でも、それがいい。

これでもかという急傾斜のアップダウンを繰り返して到達した山頂が、ただのなんでもない山頂ってのが実にいい。

もし目の前に絶景が広がっていたら、それが登る目的になるかもしれない。でも、ここにはなんの展望もない。珍しい花が咲いてるわけでもない。

ここにあるのは、純粋に山を登るという行為、ただそれだけである。

大無間山を好きだと言える人は、ただ純粋に山が好きなのに違いない。

美しい樹林帯を快調にもどり、小無間からは明神尾根を下ることにした。こちらのほうが登り返しもほとんどなく、崩壊地を通過しなくてもいいから楽だろうと考えていた。

しかし、下り始めてすぐに、それは間違いだと気づいた。

登山道のない急斜面は立っているのもやっとである。そこを下っていくのだ。ゆっくりとしか下りられない。
尾根の途中で尾根を外れて沢側へ下らなければならないポイントも2ヶ所ある。当然だが踏み跡はないので、正確な読図力が必要となる。

困難な下山となってしまった。

だがこれがいい。最後まで楽しませてくれそうだ。

さすがに最後は足にきた。最後が最も急傾斜で、ルートも不明瞭であった。急斜面で踏ん張りきれずに何度もスリップした。

下ってるのか滑り落ちてるのかわからない状態になりながら、ようやく舗装路が見えてきた。

よしよし。ピンポイントで狙った場所に出てきたぞ。

満足感と充実感にひたりながら、夕暮れのなか、駐車場まで8キロの舗装路を歩いてもどった。