薮と徒渉と急登と – 佐武流山
思わず手を使わざるを得ない嶮しい登り。見上げれば終わりを見ることもなく、まるで天まで昇るかのよう。足元は崩れて安定しない。縦横に張った木の根は、前日の大雨に濡れて滑る。
これはちょっとキツイな。標高差1000mをこの調子で登るのか…。
出発直後から荒れていた。いきなりの崩れた道と生茂る藪、崩壊地のトラバース、そして脛まで浸かる徒渉。徒渉ポイントが小滝の直上しかないなので、バランスを崩すと滝下に落とされてしまう。足を滑らせないように、しかたなく靴を履いたまま渡ったせいで、靴の内部まで浸水してしまった。そもそも舐めていたので、履いていたのは防水性ゼロのローカットシューズだ。そう、登る前はいちおう200名山だし、それなりに整備されてるだろうと思い、ハイキング気分でサラッと終わらせるつもりだったのだ。
それがいまは、ぐっしょり濡らした靴と靴下で、目の前の急登を喘ぎながら登っている。
天気はいい。頭上の空は真っ青だ。早く展望のあるとこまで登りたいが、現実は遅々として進まない。この急登、登るのはまだしも、帰りを考えると憂鬱である。
喘ぎ喘ぎ登り続け、ようやく周囲の山並みが見えてきた。
今日の目的地の佐武流山。真っ平らな苗場山から続く稜線。その他の見慣れない上越の山々。
ワルサ峰を超えた。このあたりは縞枯れで見晴らしがいい。
樹林帯を抜けて空が広い。梅雨が明けて夏の空だ。
苗場山からの縦走路と合流したら最後の登りに取りかかる。ここまでほどの急坂ではないが、疲れ切った体には応える登りだ。
日の当たらない樹林帯の、道が平坦になる部分はもれなく泥濘になっている。慎重に歩いていたつもりだったが、何度目かの泥濘にズボッとハマってしまった。足元は泥々のぐちゃぐちゃになった。
ヘトヘトのヘトで到着した山頂は木々に囲まれてほとんど展望がなく、見えるのは苗場山方面だけだった。
この日、同じ時間帯に同じようなペースで登っていた四人が山頂でいっしょになったが、みな口々に、キツかった…と言っていた。
ひとしきり山頂を楽しんだら、ひとりまたひとりと下山していく。
自分もそろそろ下ろうか。あの急で荒れた道が待っている。
2020年8月