風と光と奇跡たち – 守門岳
すごいすごいすごい、なんて美しいのだろう。青空に輝く白銀の稜線だ。
やっぱり諦めずに登ってきてよかった。
予報に反して早朝は曇天だった。気持ちも上がらず、重い足取りで登り続けた。
こんな天気で登ってもな…と投げやりになっていたが、樹林帯を抜ける頃には灰色の雲が薄らぎ、わずかな雲の切れ間からは青空も見え始めた。
これは、もしかして…。
標高を上げるにつれて青空の範囲が広がっていき、稜線に出たときにはすっかり晴れ間がもどってきていた。
よかった。諦めずに登ってきてよかった。やっぱり山は登ってみなくちゃわからない。
さて、まだ大岳まで登っただけだ。この先は稜線を歩いて守門岳まで向かう。誰も歩いて行かないので若干の不安はあったが、眺めている限りさほど危険はなさそうだ。
雪が付いて急角度になった斜面を慎重に降りていく。鞍部まで下ったら再び登りだ。雲はすっかり無くなった。青空が痛いほど眩しい。
気温の高い日が続いていたため、雪庇はすっかり落ちてしまっていた。東洋一の大雪庇は見られなかったが、稜線の美しさは変わらない。それに雪庇がなくなって、危険度も少し低下したはずだ。
青空に向かって白い稜線を上がっていく。なんとも言えない高揚感に包まれていく。
守門岳の山頂からは周囲の山々がぐるっと見渡せた。
ひときわ目立つのが駒ヶ岳のようだ。八海山や荒沢岳はどれだろう。浅草岳はもっと近くにあるはずだ。尾瀬や谷川も見えてるのだろうが、どれがどれなのかいまいちわからない。いつもと違う眺めは新鮮だ。
山頂には登山者だけでなく、スキーやスノーボードの人たちも多かった。だれもが自然に微笑んでしまう、そんな日だ。
風と光と青空と白い山々に包まれて幸福感で充満していく。なんとも満ち足りた心地がする。
ふと、ある歌の一節が心に浮かんだ。
あなたが見るであろう奇跡たち
あなたを包む風と光と
焼き付けて、見えなくなってしまう日は
あまりにも早くやって来るから
原曲とはちょっと違うけど、この方がいまの気分にあっている。
そう、いつかは見えなくなってしまう日が来るんだよな。そしてそれは思いのほか早いのかもしれない。だからこそ、目の前の一瞬を大切にしたい。
下山時は雪が緩んで足は重く、体力を消耗し靴擦れも酷く、3分の1ほどを残して足が尽きた。後はよろよろと下って、ずいぶん遅くなってしまった。
でも、そんなことはどうでもいいのさ。幸せで満ち足りた一日だったのだから。
2022年4月