山頂デザート @なぜか八ヶ岳
「霞沢岳行くから」とS子先輩。
はっ!?霞沢岳ってあの北アルプスのあの霞沢岳ですよね?でっかくてゴツゴツしたあの霞沢岳ですよね?あんな厳つい山に、この残雪期に登れる自信ないんですけど…と申し上げましたが、ガン無視されました………。
先輩命令なので登るしかありません。まあ、霞沢岳に登れるかどうかは別にして、久しぶりのテント泊です。それも北アルプスです。それはちょっと、いや、かなりウキウキです。
夕飯なににしようかな♬と、ウキウキ気分でテント装備を押入れから出して、早々に準備を始めた数日後、またS子先輩からの連絡が。
「八ヶ岳へツクモグサ見に行くから」
はっ!?八ヶ岳に変更ですか?テント泊は?行者小屋でもいいですし…と申し上げましたが、ガン無視されました………。
はい…。先輩命令ですから…。半年ぶりに押入れから出したテントを、30分後にまたそっと押入れにしまいました。
というわけで美濃戸です。沢渡ではありません。ここからツクモグサを見に行きます。
今回S子先輩は手下を二人引き連れています。SさんとY子さん。お二人ともS子先輩に負けず劣らずの屈強な岳人です。屈強な岳人3名+軟弱な山ボーイ1名の4人パーティで出発です。
屈強な岳人先輩諸氏の無言の圧力により、なぜか当然のようにわたくしが先頭を歩くことになっていました。屈強な岳人先輩諸氏に後ろをくっつかれて歩くのは緊張します。が、山でも軍隊でも下っ端が先頭です。クマに襲われるのも、ベトコンの狙撃兵に狙われるのも、わたくしの役目です。ここは何か申し上げてもガン無視されるだけなので、黙って黙々と歩きます。
遅過ぎず速過ぎず一定のペースをキープします。残雪の樹林帯や険しい岩場ではルートを外さないよう注意します。前には誰も歩いていません。ん?これじゃあいつもと変わらないじゃん…。なにも考えずに、ただ前の人にくっついて行くだけのイージーな山登りを想定していたのですが…。全く楽はさせていただけないようです。
「じゃあ、文三郎で」
はっ!?横岳にツクモグサを見に行くのでは?えっ!?ここまで来たら赤岳に登るのは当然だと…?
先輩諸氏のお言葉です。先輩命令は絶対です。まずは赤岳を目指します。
階段地獄で赤岳に登り、ガレた急斜面を下って地蔵の頭へ降り、横岳方面に少し進んだところにツクモグサは咲いてました。昨年はガスガス真っ白で、ツクモグサもみなさんお休み中でしたが、今年は中途半端に曇り空のため、中途半端に半開きでした。
これで目的も果たしたし…と思っていたら。
「地蔵は下らないから」
はっ!?ということは………硫黄まで行くとですか!?
全く心の準備をしてなかったのですが…。というか、こんな行き先をわかってないやつが先頭を歩いてていいのでしょうか…。
ちょろっと横岳でツクモグサを見るだけだと思ってたので、重量は気にせず荷物をいろいろ詰め込んできてしまいました。調理器具も食材もあるし、カメラ2台にレンズ3本も担いでいます。
まだまだ先は長いと知ると、とたんにザックが重たくなりました。そこへ横岳の岩場の登って下って登って下っての繰り返しです。もうこれで最後だろうとなんとか登り切ると、その先にはまだいくつもの岩峰がそびえていて、あぁ、あれ全部超えるのか…と背中の荷物がさらに重くなります。
ぐったりつかれて横岳に到着し、小休止してからさらに硫黄岳を目指します。
先輩諸氏の会話が背中越しに聞こえてきます。
「あれが大同心?」
「あれは隠密同心」
………………。腰が砕けそうになりました……。
突っ込む余裕もないので、心の中で、死して屍拾う者なし…とつぶやきつつ、横岳の岩場を下ります。
硫黄岳山荘まで来たら、あとは最後の登りを登るだけ。山頂まで、ずーっとなだらかな道が見えています。
以前にここへ来た時はガスガス真っ白で、霧の中を進んで行くと、ぼおっと微かに浮かび上がってくるケルンを頼りに歩きました。でも今日は全て見えています。
真っ白でなにも見えず、足元の緑のロープを超えないように注意して近づいた爆裂火口も完全にその姿を見せています。
そして振り返ると!!
すごーい!!こんな風に見えるんだ〜!!
阿弥陀岳から赤岳横岳と続いて硫黄岳へ至る稜線がくっきり。すぐ目の前に大きく広がっていて、手を伸ばせば触れられそう。
すごいすごいと感激するわたくしをガン無視して、先輩諸氏はランチの準備です。わたくしも急いで担いできた肉を焼き、先輩諸氏に召し上がっていただきます。「おいしい」「次回も」「ビールは?」等々のありがたいお言葉をいただきました…。
食後のデザートはS子先輩の専門分野です。今回はSさんの誕生日でもあり、かなり豪華なケーキだそうです。
そういえばS子先輩も今月誕生日だったよな。えーっと今年は2015年だから…と計算してると来ました!!
なんとかっていう有名なお店のケーキに季節外れのイチゴ添え!!
チョコレートが有名なお店のチョコレートケーキだそうですが、チョコレートといえば明治と森永とゴディバしか知らないわたくしには未知の領域でした。イチゴは、誕生日のケーキには必ずイチゴがなくてはならないというSさんの譲れないこだわりのために、特別に用意されたものだそうです。
おいしいケーキにコーヒーもいただき、名残惜しいですが圧倒的な風景にさよならして下山を開始します。
四代目スケバン刑事って雰囲気のY子さんは、赤黒のシュッとしたウェアにでっかいサングラスの、なんというかレーサーのようないでたちで、聞けばスピード狂で運転するとアクセル踏み込みまくりだとのこと。やっぱり………。「帰りは運転させろ」っていうのを、ひたすら聞こえないふりして赤岳鉱泉へ下ります。
Sさんは相変わらず、聳える大岩を指して「あれが隠密同心」とか言っています。S子先輩は「隠密同心影同心」とか言っています。わたくしはひたすら聞こえないふりして、黙々と北沢を下ります。
寝不足に極端に弱く、4〜5時間の睡眠時間では眠くて眠くて歩けなくて、山頂だけでなく登山道の脇や木道の上でも倒れるようにして爆睡したことのあるわたくしは、1時間ほど仮眠しただけで、果たして最後までもつのだろうかと心配していましたが、先輩諸氏の無言の圧力により、無事に歩き切ることができました。
やはり緊張感ってのは、体を動かす強力な力になるのですね。美濃戸に帰還した時は、背中のザックを下ろして、ふう〜っと大きく息を吐き出しました。
先輩諸氏のみなさま、どうもありがとうございました。みなさまの圧力により最後まで歩き切り、さらにはずーっと運転して帰ることができました。
また、よろしくお願いいたします。肉でも酒でもなんでも担ぎますので…。