秋色の稜線 – 山伏 / 八紘嶺

うっとりするような秋の陽射し。

やわらかであたたかな晩秋の斜光が、木々も山も空気さえも、うっすらとオレンジ色に染めている。

秋の終わりの日の光に包まれて、山伏から八紘嶺までの穏やかな稜線を進む。

なんて気持ちのいい道なんだろう。来てよかったな。心からそう思える瞬間だ。

山伏の山頂も気持ちのいい場所だった。

木々の茂る鬱蒼とした尾根を何時間も登ると、突然目の前に開ける山頂直下の広い笹原。

笹原の向こうには富士山。

山頂からは南アルプス南部の山々が見える。

聖岳に赤石岳に悪沢岳。先月歩いたあの稜線だ。
その手前には笊ヶ岳に布引山。あの稜線も歩いてみたい。

山頂に向かって薄暗い尾根を登っている間は、もっと標高の高いところに行けばよかったかなって、ちょっぴり後悔してた。
生い茂る木々の隙間から雲ひとつない青空がチラチラ見えるたびに、気持ちは焦りやきもきした。

でも、こんな風景の中に身を置いたら、そんな気分は消え去ってしまう。

秋の陽射しと色づく木々に囲まれた秋色の稜線。いまここでしか見れない景色。

一歩一歩ゆっくりと、噛み締めながら味わいながら、大切に歩いた。