冬の権現岳 again & again
「雪ないっすね…」
「ほんとないね…」
そんな会話があいさつ代わりになる。雪ない雪ないとさんざん言われてきた今年の冬だが、こうして毎年登る山に来ると、そのことがより強く実感される。なにせ、いつもなら太ももあたりまで雪に埋もれて泳ぐように登る急登が普通に夏道だ。
雪はないが、まったくないわけではない。いつもよりは黒い部分が多いけど、それでも白く染まった南八ヶ岳の峰々は、いつものように美しい。
青空と雪山。この景色を目にする幸福。
三ツ頭を超えて権現岳へ登る。雪が少ないと簡単だ。あっさり山頂に着いてしまった。
予定よりだいぶ早い到着なので、ギボシまで向かうことにした。
ギボシへの最後の登りは両側が切れ落ちていて、いつもなら雪庇ができていて、踏み跡がないとけっこう怖い思いをするのだけど、雪庇ができるほどの降雪もなく、しっかりと踏み跡もあって、楽々で登頂してしまった。
とんがった三角錐の頂点に立つ。
体の周りは空間だ。ただ足元に地面があるだけだ。
ここに立つといつも、自分が巨人になったような、よりちっぽけな存在になったような、不思議な感覚が沸き起こる。
とは言えここは、山頂も狭く緊張感もある。ガチガチに凍ってるので、もし滑ったらずっと下まで落ちていくだろう。体の向きを変えるときは慎重に。強風に煽られてよろけると危険だ。
この時間、この瞬間というのは、なににも変えられない貴重なものだ。これがあるから、くりかえしくりかえし山に登ってしまうのだ。
ふと、動きを止め、緊張を解し、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
狭い頂きに立ち、白銀の峰々を眺めて、風に吹かれ続けた、
2019年2月