すったてと呉汁 – 埼玉県 川島町
埼玉県比企郡川島町、埼玉県の中央部に位置する自治体で、鉄道が通じてないため駅もなく、陸の孤島と揶揄されることも多い。地図を見てみるとわかるが、実際に四方を四つの川で囲まれて島のようになっているので、陸の孤島もあながち間違いではないだろう。川の中の島の町だ。
二毛作で小麦を栽培してきた埼玉では、長らくうどんが愛され食べられてきた。一位が圧倒的なためにまったく目立ってないが、埼玉県はうどん生産量全国二位のうどん県なのである。川島町でももちろんうどんはよく食べられている。武蔵野台地に隣接しているので、茹で上げたうどんを肉汁や冷汁につけて食べる武蔵野うどんスタイルが一般的だが、川島町独自のうどんもある。
すったて
川島町の夏のうどんは「すったて」だ。茹で上げたうどんを、味噌と胡麻をすって冷水でのばしたツユにひたし、ミョウガやキュウリ、大葉、タマネギといった薬味とともに食べる。味噌のしょっぱさと薬味の刺激で、暑い夏にぴったりのうどんである。
すったてを食べるために川島町へ向かった。川島町でうどんを食べるなら、まずはなんといっても『庄司』だ。圧倒的に美味い庄司のうどんは、県内でも群を抜いている。名店中の名店で、休日にはクレイジーな行列ができることもある。
庄司のすったては当然ながら美味い。小麦粉と水と塩だけで、どうやったらこんなに美味いうどんができるのか理解できないほどに美味い。だが、ふと思った。うどん自体が美味すぎて、これではすったてがどのようなものなのか、わからなくなってしまうのではないか。

元々すったては、農家が夏場の農作業の合間に食べていたものだ。そんなすったてを川島町の名物にするために相談を受けた料理研究家のインタビューを読んだことがあるが、レシピ化するためにまずは各家のすったてを食べてみたところ、どれもあまり美味しくなかったそうだ。
それはそうだろう。元来は農家の仕事メシだ。簡単で手っ取り早く腹を満たすための食べ物である。各々の家庭で打ったうどんは、茹でてから持ってきたに違いない。それをこれも同じく自家製の味噌と胡麻をすって水でのばしただけのツユで食べるのだ。薬味はそのへんの草である。
庄司のうどんは美味し過ぎて農家の仕事メシからずいぶん遠いところへ来ているが、川島町には他にもうどん屋が何軒かあり、良い店は地元民で賑わっている。そんなローカルうどん屋でもすったてを食べてみた。

芸術的な庄司のうどんと比べると、確かに手作り感の強いうどんだ。美味しくないわけではない、素朴なのだ。もちろん店で提供するために改良されてはいるのだろうが、すったてがまだ農家の仕事メシだったころの名残をとどめている。
すったてを食べ終えると、残ったツユをごはんにかけて食べるよう勧められた。なるほどこれは川島町の冷や汁だ。さわやかな薬味としょっぱい味噌の冷たい汁で、米がするすると入っていく。
もしかすると、これこそがすったての原型なのではないだろうか。真夏の炎天下で食べる農家の昼メシだ。

呉汁うどん
呉というのは、すり潰した大豆のことである。これを加えた汁物が呉汁、うどんに加えれば呉汁うどんだ。川島町の呉汁うどんは味噌仕立てで、野菜やキノコがたっぷり入っている。
例によって『庄司』で呉汁うどんを食べてみた。巨大な土鍋に具もたっぷりで、うどんが見えない。真ん中の白い球が呉なのだろう。呉を崩して汁に溶かしながら食べる。八丁味噌を使っているが、そもそも川島町の味噌は米味噌が主流だったはずだ。具沢山で八丁味噌仕立てで、高級で上品な呉汁うどんになっている。
うどんはもちろん美味いのだが、庄司のうどんはつけ汁で食べてこそではないだろうか。温麺にしてしまうと、せっかくのうどんがもったいない気がした。

ローカルうどん屋でも呉汁うどんを食べてみた。種々の野菜に、味噌はスタンダードな米味噌だ。呉は最初から汁に溶け込んでいるが、取り皿によそうと粒々した大豆の破片がたっぷり混ざっているのがわかる。

この店では呉汁うどんにごはんが付いてきた。確かにこれは、うどんというよりもごはんのおかず、あるいは鍋物である。
冬場に不足したタンパク質を呉で補い、熱い汁で体を暖めた呉汁うどんは、やはり寒い寒い冬のうどんなのである。





