冷やし中華発祥の店 – 東京編

仙台の冷やし中華発祥の店で冷やし中華を食べたので、東京の冷やし中華発祥の店でも冷やし中華を食べてみることにした。冷やし中華は仙台と東京でそれぞれ別個に生まれたとされているのだ。

発祥の店というのは、本当はそうではないことが往々にしてある。声高に自称している場合はなおさらだ。カツレツやオムライス、ハヤシライスなど様々な洋食の発祥の店を自称している某老舗洋食店は、近代食文化研究会氏の緻密な考証によって、すべて嘘だとバレていたりもする。

冷やし中華の場合は誰も考証してないからか、仙台と東京で別々に発祥説がいちおう一般的に受け入れられているようだ。

神保町の『揚子江菜館』が東京での冷やし中華発祥の店になる。揚子江菜館の元祖冷やし中華は「五色涼拌麺」ともいう。ここでも涼拌麺だ。

仙台と東京のそれぞれの発祥店が、冷やし中華とは決して同じ料理ではない涼拌麺という名を使っているのは不思議だ。偶然だろうか? それに「冷やし中華」という名称はいつどこで生まれたのかという新たな疑問も生じる。だが私には緻密な考証をする能力は無いので深く追求はしない。

揚子江菜館の冷やし中華は見た目からしてクラッシックだが、食べてみると酸味を抑えたクラッシックな味わいだった。あっさりさっぱりしたタレはスープのようにたっぷりある。

美しく並べられた具が特徴的で、焼豚、錦糸卵、きゅうり、椎茸、海老、絹さやくらいまではあり得るものだが、白い糸寒天や茶色の細切りタケノコ煮は他店で目にしたことがない。さらに錦糸卵の下には、うずらの卵と鶏肉団子が二個づつ隠れていた。

エレガントでゴージャスでオリジナリティ溢れる冷やし中華だ。

池波正太郎の銀座日記に登場する『Y』という店は、この揚子江菜館になる。池波は揚子江菜館の上海焼きそばで酒を呑み、シューマイをお土産にしたという。

揚子江菜館は冷やし中華の発祥の店というよりも池波正太郎が愛した店というのを売りにしているようだった。この日も、池波ファンと思しき初老の紳士が昼からアルコールを嗜んでいた。

揚子江菜館の上海焼きそばもシューマイも未だ食べたことはない。焼きそばとシューマイで昼酒をキメてみたいと思いつつ、なんだか気恥ずかしくて実行してはいない。

2025年8月