聖地長浜 – とんこつラーメン放浪記 2

都内のとんこつラーメン店には「長浜」を標榜する店が多かったけど、博多ラーメンと長浜ラーメンの違いはよくわからなかった。それもそのはずと現地まで来て理解した。長浜は博多に隣接する漁港で、中心街の天神から歩いてもそんなに遠くない。銀座と築地くらいの距離感だ。これだとお互いに影響し合って境界線はあいまいになるだろう。

漁港なので港の規模はそれほど大きくはない。係留されているのは小型の漁船ばかりだ。福岡市という人口160万の大都市に、こんな漁村のような港があるのがなんだか不思議だった。

博多の中心街で営業していたラーメン屋台が魚市場の近くに屋台を移すと市場で働く人々で盛況になり、魚市場が長浜に移転したのに合わせてラーメン屋台も移転してきた。これが長浜ラーメンの始まりだという。

市場で働く忙しくて気の短い男たちに合わせて、麺は極細にして茹で時間を短くし、短くした麺がのびないように一杯の量は減らして、たくさん食べたい客には麺のお代わりで対応する。とんこつラーメンの特徴とも言える極細麺と替玉は長浜の屋台で生まれ、他の地域へ広まっていった。

長浜ラーメンの元祖は、その名も『元祖長浜屋』、現在は屋台ではなく実店舗で早朝から深夜まで営業している。シンプルな店内には赤いテーブルが無造作に置かれ、当然のように相席で座る。

ラーメンは見るからにあっさりしていた。スープに透明感がある。色は典型的な博多ラーメンの真っ白ではなく、やや茶色がかっている。

スープをひとくち飲んでみる。う、うまい!と心の中でつぶやいた。ほんとは大声でうめー!と叫びたかったけど、自重してクールを装った。

とにかくあっさりさっぱりしている。旨みや甘みが過剰に添加されていない。都内で食べ歩いたとんこつラーメンもさっぱりしてると感じたけど、それらとは比較にならない。上品で繊細。だからといって物足りないなんてこともない。九州出身者が東京のとんこつラーメンは味が濃くてちょっと違うなって思うと言ってたのを理解した。ほんと現地まで来ないとわからないことってたくさんある。

具は青ネギと煮込んだ肉。チャーシューではなくて煮込み肉なのは、この店の特徴なのか長浜スタイルなのかわからないけど、この肉もあっさりした軽い味付けだった。とんこつラーメンのチャーシューは、あってもなくても変わらないようなペラペラで頼りない薄切りが多いので、この煮込み肉はありだ。むしろ積極的に推奨したい。

この肉も替肉としてお代わりできる。そしてたったの100円だ。替玉は150円、ラーメンはたったの550円。フルセットでも800円だなんて、脅威の低価格じゃないですか。大丈夫なのかな?と心配にもなるけど、繁盛してるし大丈夫なのだろう。

卓上トッピングは白ゴマと紅生姜、替玉をもらってトッピングを追加する。相席になった地元っぽい人たちの食べ方を観察していると、やはり最初はそのままで食べて替玉で味変している。麺は何も言わなければ普通で出てくるので最初はそのまま、替玉で「カタイ玉」にしている人が多い。都内で食べ歩いて開発した食べ方が正解だったと気を良くした。

長浜ラーメンには「ベタナマ」という指定もある。ベタは油多め、ナマは生麺かと思って避けたけど、どうやらバリカタのことらしい。バリカタも好みではないから食べなかったけど、店内では時々ベタナマを指定する声も聞こえた。せっかくだからやっぱり食べておけばよかったかな。

長浜には他にも何軒かのとんこつラーメン店がある。またの機会に他の店も訪れてみたい。

2024年12月