記憶の旅 – 草津

草津と草津白根山にはずっと近寄らないようにしていた。あえて避けてたわけではないけど、無意識的に心の中で遠ざけていたのだと思う。数年前に群馬の山村を訪ね回っていたときにも、すぐ近くまでは何度も行ったのに、草津に寄ることはなかった。

すでに遠い昔のうっすらとした記憶になっているとはいえ、よかったあのころの想い出がそこには残っているから、なんとなく近寄り難い、または、なんとなくそっとそのままにしておこうって気持ちが、心の奥深くのどこかにあったのだろう。

それがなんでまた急に白根山に登ってみようと思ったのか、自分でもよくわからないけど、なんだか急に登ってみようって気になって、夜中に車を走らせてやってきた。

が、しかし、夜が明けると周りは真っ白なガスの中。車が揺れるほどの強風が吹いている。

渋峠まで行ってみると、もう5月も半ばだというのに樹氷ができていた。たいした防寒着も用意していなかったので、あっというまに体が冷える。

とても登山をするような状況ではなく、というか車から出るのも怖いくらいなので、しかたなく草津にもどり、街をぶらぶらして天候の回復を待つ。

あのころ泊まった旅館、あのころ歩いた道、あのころ眺めた風景、なんだか懐かしいような懐かしくないような、うまく説明できないけどなんだか不思議な気持ちだった。

町並みも温泉もウザい温泉まんじゅう売りもあのころと変わりなく、変わってしまったのは自分だけのような不思議な気持ち。

結局、昼まで粘ってみたけれど天候が回復する兆しもなく、ガスガスの中を歩いて楽しい山でもないし、そもそも装備的に寒過ぎて無理なので、諦めて撤退することにした。

それなりの覚悟で来たはずなのに、なんとも中途半端な結末。

そしてこの日から二週間ほど経つと、白根山の火山噴火警戒レベルが引き上げられ、火口周辺は立入禁止となってしまったのでした。

2014年5月