冬終わりなば、春遠からじ – 仙人ヶ岳 / 石尊山

それにしても寂しい山だ。人の気配もないし、春の気配もない。

ハナネコノメが咲いていると聞いてやって来たが、沢沿いではなんの花も見つけられなかった。生命の気配もなく、あるのは葉を落とした疎らな木々と足元の枯葉ばかりである。

ハナネコノメは諦めて稜線に出た。しばらく歩くと仙人ヶ岳の山頂だった。

山頂はひっそりとしていた。ここまでで数人とすれ違ったが、みな足早にさっさと下山していった。

この先はもう誰とも会わないだろう、そう思いつつ先へと進んだ。

最初の分岐を南へ折れた。反時計回りにぐるっと回って、スタート地点へもどる予定だ。

山火事の跡だろうか、燃え残った木々が山肌に広がっていて、寂しい風景をいっそう寂しくさせている。

途中の荒倉山から振り返ると、先ほどの仙人ヶ岳の山頂が、寂しげな稜線上でぽこっと頭をもたげていた。

寂しくかつ痛々しい稜線を、登ったり降りたりをくり返して徐々に標高を下げていく。

いったん里へ降り、県道を渡って反対側の登山口から再び登り始めた。

こちらの石尊山には、登っている人もそれなりにいた。家族連れやカップルが多く、地元の人がぶらっと来た感じだった。登山道は整備されていて、雰囲気もさほど寂しげではない。いや、明るい山だと言ってもいいだろう。ここまでの山のような痛々しさもない。

見晴らしのいい開けた場所に出たので山頂だと思ったが、そこは休憩ポイントだった。お父さんお母さん幼い子供二人のファミリーがお昼ご飯を食べていた。

もう少し登り、石尊山の山頂に着いた。午前中に歩いた稜線が向かい側に見える。

あとはこの先の深高山まで歩き、そこから下って駐車場へもどる。

2020年3月