冷たい瞳 – 一切経山

風が強い。油断してると体を持っていかれそうだ。赤茶けた砂と岩の山頂には、生命の気配がない。眼下の五色沼は、厚い灰色の雲に覆われた空を映している。

この五色沼、と言うよりも魔女の瞳という通称のほうが知られているだろうか、ここに来るまでに何年もかかってしまった。

一切経山は活火山であり、その活動を活発化させると広範囲に立入禁止となる。登るつもりでいたら規制がかかり、予定変更を余儀なくされたことが過去に二度あった。

しかし今は、どうやら登れるらしい。火口周辺には近づけないが、山頂には行けるようだ。磐梯吾妻スカイラインも通行可能である。

そうして、ようやく三度目の正直で一切経山の山頂に立ち、魔女の瞳を見下ろしているのだ。これで青空が広がっていれば申し分ないのだが、欲張りなことは言うまい。視界があっただけでも良しとせねば。これで何も見えなければ、さすがにがっかりである。

遮るものない剥き出しの山肌を冷たい風が吹き荒ぶ。じっとしてると体が冷えてきた。あまりゆっくりできる環境ではない。降りよう。

今回はここで終わりではない。この先にも進むのだ。